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「貴方、私のこと好き?」

「ごほっ」


 翌日。急に押しかけてそんなことを言う彼女に、シヴァがむせる。

 直球でそんなことを尋ねるなんて、彼女は本当に王族なのだろうか。シヴァはそんなことを考える。逃避に過ぎないのは分かっているけれど。

「な、なんだよ急に」

「別に?単に気になっただけよ」

 そう言って肩をすくめたシルクは、少し憂いを帯びた表情をする。今日ここに来てから、暇さえあればしている表情だ。


(⋯なんだよ)

 ちょっと、ムカついた。それが本音だろう。もっと言えばシルクがここにいながら別のことを考えている事に対する、不満のようなものだ。

(不満?)

 それで、シヴァは疑問に思う。

(どうして、不満なんだ?)

 だって、シルクは王女だ。それに、ちょうど婚期だというのに婚約の話は一つもない。大臣やら親やらに愚痴を言われるのだろう。

 いくら改革があったからと言って、シヴァの知るこの国の根本は激しい女性蔑視だ。どうせ『女の役割は子種を残すこと』だの何だの言われたのだろう。

 正直、呆れる。シヴァの知るシルクはそんな人間ではない。少なくとも、こんな意志の弱い人間ではないはずだ。


「⋯何を言われたか知らないが、嫌いじゃねえよ」

 これが一番無難な回答だろう。シルクを盗み見る。

「─そう」

 淡々と言うが、表情に安堵がある。よく分からないが、最悪の事態だけは回避したのだろう。

「んで?」

「へ?」

 きょとん、と首を傾げるシルクに、なぜか怒りに似た感情が発露する。

「だから、昨日来ただろ。夜に」

「⋯は?」


 意図しないシルクの反応に、今度はシヴァが首を傾げる番である。





「扉が開いてた?散歩の間に?というか勝手に王城歩き回っていいの、幽霊さん」

「幽霊じゃない。シヴァだ」

 シルクが名付けた名を、こうも堂々と言われると気恥ずかしくなる。

 シルクは思い返して熱くなった頰を冷ましながら、シヴァの続きを待った。

「あと普段から夜の警備が疎かなそっちが悪いだろ。毎月一回は警備がほとんどいない日があるぞ」

「そうなの!?」

 驚いて声を上げたシルクに、シヴァが厳しい視線を向ける。シヴァは大きな音をひどく嫌う。理由は知らないが、なんかあるのだろう。シルクの知らない、シヴァの秘密が。

「⋯とにかく、昨日は来てないんだな?夜も、だぞ」

「そもそも夜は寝させられているのよ。こっそり外に出る、なんて無理な話じゃない」

「できるさ」

「なんでそんなに自信があるのよ⋯」

 自分のことじゃないだろうに、とシルクはまた呆れた。どうもリネン室の住人はシルクと常識が違うようだ。

「そうか⋯いや、感謝する。でもお前じゃなけりゃ、一体⋯」

 ぶつぶつと考え込んでしまったシヴァは、多分今声を掛けてはならないのだろう。

 そっと離れた場所で布を敷いて、シルクも一人考え込む。


 今日、来る時に捕まったのだ。あの小賢しいルイ・トーレクに。

 何やら愉しそうにしていた。内容は「最近、教育速度が落ちてる」という苦言だったから、心に刺さったけど。

 ああ、そうだ。彼は何だか変なことも言っていた。

『⋯王女様、お気を付けください。何せ貴女はいつも危険を顧みない。──周囲にいる人間が、どうして危険ではないと言えるのですか?』

 その笑みが、シルクに物を言わせないものだったから。シルクは何だか意味の分からない恐怖に襲われて、適当にやり過ごしたのだ。

 それにしたって。

(周囲にいる人間が、危険?クリフやジュノが危険だというの?そんなことないわよね、皆信頼されてあの職に就いているのよ?)

 ルイの言うことは、何だかよく分からない。ルイ自身も理解されなくていいと思っているらしい。

 分からなくて良い、というのは諦めではないのか。

 そう伝えても、どうせ彼はきっとシルクの(第一王子)の言うことしか聞かないだろう。難儀な人だ。

「⋯分からないことって、あるものなのね」

「当たり前だろ。人生なんざ分からないことだらけだ」

 独り言として呟いた言葉だったが、シヴァには届いてしまったようだ。

 その通りだと言わんばかりに頷きながらシヴァは続けた。

「分からないことを分からないって知ること。それか、分からないことを分からないなりに考えて分かるように噛み砕くこと。それが大切だ」

 まあ持論だな、と付け足して真面目に言うシヴァが、初めて大人っぽく見える。

 だから、シルクは改めて思うのだ。


(シヴァ⋯──貴方は一体、何者なの⋯?)


 その答えはきっと、遠からず分かる──何故かシルクはそう確信していた。


その答えは、気持ちの良いものであるとは限らないのだけど。

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