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 三日月。不吉な夜。何か、悪いことが起きるらしい夜。


(合ってたわね⋯)

 そんな事を考えるシルクは、不貞腐れた顔で布団の中にいた。シルクは今日、朝から教育されていたのだ。

 教育。読んで字の如く、である。要は最近フラフラと部屋を抜け出したり色々してるのを見咎められた、と。それを怒られた、と。

 そういうことである。

「別に、迷惑なんてかけてなんか⋯」

 そこで彼女は言葉を止める。


『また、来たのか?』

 そう、嫌そうに言うシヴァ。彼はいつも迷惑そうな顔をして、シルクにそう問うていた。

 “嫌そうな顔をして”。つまり、多分シヴァは嫌だったのだろう。


「⋯ぇえ?」

 漏れた声は軽いものだったけれど。シルクの感情は、軽いものとは言えなかった。

 もしかして。いや、もしかしなくても、シヴァはシルクが来なくてよかった、と思っているのではないか。シルクが煩くて。迷惑で。だから、来てくれなくても良い、と思っているのではないか。

 推測。そう、推測に過ぎない。あくまでもこれはシルクによる妄想だ。

 しかし、それを妄想だと断じるほど、シルクは勇気がなかった。何せ初対面から酷い会話をしてしまったのだし。

 多分、シヴァはシルクが嫌い⋯かもしれなくもないかもしれない。どっちだ。

 シルクはそっとベッド脇の鍵束を見つめる。殆ど王城の部屋は見尽くしてしまったけど。鍵束一つで、こんな生活が待っているとは思いもしなかった。

 今の楽しさをずっと感じてたい。楽しい生活に、もっと変えたい。


(なら、やっぱり確認しなきゃ、よね)

「⋯うぅ、名誉挽回できるといいけど」

 頭まですっぽりと覆われた布団の中。シルクは外と内からの寒さに身体を縮こませて、ゆっくり眠りについた。








 シルクがやっと夢を見始め、シヴァの散歩が折り返しになった頃。

 リネン室に、一人の影が揺らめいた。その手にはロウソクが灯されている。

 足取りは静かに、だが決して遅くもない。そっとリネン室の扉を押して──


 扉は、何の障害もなく開いた。人影が息を呑む。

 床を走る鼠が、人影の行動を隅から覗く。それは鼠の気紛れのようで、人影を監視しているようで。

 ともあれ、人影は目的を果たしたと言えよう。

「いない⋯?」

 ロウソクでそっと部屋を照らして、しかし何の音を聞こえないことから人影は不審がる。もちろん人影はシヴァの行動なんか知らないのだから、運が良いとしか言えない。

「この、布は──」

 部屋の外からロウソクを翳して、人影は呟く。薄汚れた部屋には不釣り合いな、豪勢な毛布が数枚。

 暫く思案して、人影は笑い出す。─もちろん、声を抑えて。

「っ、クックッ⋯まさか。いや、ふふっ⋯ここまで、とは」

 その笑いは嘲るようでいて、純粋に楽しんでいるようで、愉悦を抑えているようでもあった。

「⋯いや、いや」

 誰に言うでもなく、人影はひとりごとを呟き始めた。

 鼠は、その役目を果たしたと言わんばかりに壁の穴へと潜り込む。人影を除いて殆ど気配がないからか、鼠たちは足を止めて人影の呟きに耳を立て、いつものように行動を始めた。



 こんな静かな三日月の夜には、きっと何かが起こる。

 その言い伝えは、果たして真実なのか。

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