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特殊警察「AVC」

こちらの作品は性犯罪を題材にしており、軽度な行為の描写が含まれます。

そういった内容の話が苦手という方は、読まないことをおすすめします。

作者的な制限は十五歳以上です。ですが、あくまで作者にとっての感じかたなので参考程度に。

それでも構わないという方のみ、読み進めてください。お願いします。


 二〇四九年、つまり今の日本は性犯罪大国になってしまった。

 何を言っているのか分からないかもしれないが、実際のところ俺も詳しくは分かっていない。事の経緯を知っているだけだ。


 今からちょうど俺の歳分、二十四年前の日本は少子高齢化問題に悩まされていた。

 結婚する若年層の減少、婚外子の少ない日本では、婚姻数の減少が出生率の低下に大きく関与する。

 お一人様時代なんて呼ばれる時代だったからか、それともSNSの爆発的な普及か。


 原因は詳しく知らないが、とかくその頃の日本は出生率が低かったらしい。一時期は出生率が五パーミルを下回って、一パーミルまで落ち込んでいたとか言う奴もいる。

 パーミル、すなわち千分率で一パーセント。要するに千人に一人しか生まれないというわけだ。そら少子高齢化も加速するというもの。


 そんな状況に焦りを覚えた当時の日本政府は一つの政策を打ちだした。


 それが「新次世代支援政策」というもの。具体的な内容は、従来の育児支援に加え、新たに「育児給付金」として子供一人あたりにつき十万円の支援を行ったり。

 と、これだけではないのだが色々と政策を打ちだしていた。

 俺の親曰く、当時の日本政府は相当に焦っていたらしい。政策の一つ一つに必死の形相だったそうだ。

 

 血迷ったあげく、成人年齢の引き下げも、成人向けコンテンツの年齢制限緩和も全て、少子高齢化対策として発表された。


 しかし、そんな一つの政策で少子高齢化が解消されるなら、出生率が三パーミルまで落ち込むなんてことはないわけで。

 国立社会保障・人口問題研究所の見立てでは、半世紀経っても日本の出生率の回復は見込めなかったらしい。

 

 だが、現実は違った。

 

 さきの研究所の見立てから大きく外れ、日本の少子高齢化問題は僅か五年で瞬く間に回復したんだ。

 普通に考えて「あり得ない」だろう。

 半世紀かけても回復の見込みが無いと言われていたものが、たった五年で回復することなど。

 仮にもし、適齢期の男女が子作りに励んだとすれば可能ではあるが、前提があり得ない。子作りしろと言われて素直に従う奴などいるわけがないというものだ。

 となると、国民が自ずと出生率を上げたのかという話になるが、それも違う。

 俺の生まれる前のことの話はたいして知らないが、結婚が人生の終着点などと呼ばれていた時代。

 育児に掛かる手間や金の問題が解決したとしても、「じゃあ子育てしよう!」とはならないのが人間だろう。

 つまり、当時の日本政府がどんな政策を打ちだそうと、少子高齢化という問題は解決できない。要するに詰みだった。

 

 ――「夢魔体質」という、特異体質の持ち主が現れなければ。

 

 その体質の人間は、本人にその気がある関係なしに、周囲の人間を軽い興奮状態に陥らせる。

 原理はさっぱり分からないが、特殊なフェロモンを発していると専門家は言っていた。要するに、無意識で周りの人間を「その気」にさせるというわけだ。例えるなら、動物の発情期に近い。

 半ば強制的に、子孫を残すという生物の本能に訴えかけ、その行為の矛先を自分に向けさせる。それが「夢魔体質」という存在の正体。当然、警戒するだろう。

 

 ところが、こんな如何にも怪しい体質の持ち主を、当時の日本政府は歓迎した。

 警戒することなく、そればかりか「少子高齢化という問題を抱える日本の救世主」として、正体不明の体質を持つ存在の登場を手放しに喜んだ。


 そんな間抜けな日本政府のおかげで、今の日本は性犯罪大国へと成り下がった。

 夢魔体質というのは言わば、半強制的に性行為を行わせるようなもの。そんなものを放置した結果、日本は一時大混乱に陥った。

 考えてもみて欲しい。通勤・通学の為に乗った電車が、痴漢騒ぎで一時間も停止する世界を。

 さらに駆けつけた警察までもが、興奮状態に陥り公務を放り出して行為に及ぼうとする様を。

 たまったものじゃないだろう?

 

 そして、夢魔体質による弊害はそれだけじゃない。初めて夢魔体質が確認されたその一年後くらいに、身体能力が異常発達した子供が登場したのだ。

 筋力が常人の数倍あり、垂直跳びでビルの五階まで到達する子供。聴覚が非常に敏感で、ものが移動するときの風切り音のみで移動したものの詳細を把握する子供。視覚が強化され、百メートル先の道路上に置かれた小石に書かれている文字を読める子供。

 もはや化け物としか言いようがない子供達が、大量に現れたのだ。

 

 専門家によれば、感覚器官の鋭敏化や肉体の強化は一部の変化でしかなく、俺たちが把握していないだけでそれ以外の変化をしている子供もいるという。

 当然、その化け物たちのおかげで日本のセキュリティは意味をなさなくなった。


 そうまでなってようやく、日本政府は事の重大さを理解したらしい。この日本の大混乱を沈静化するべく、政府は秘密対策組織を設立した。


 その組織の名は「アダルト・ヴァイオレンス・クライム」。秘密特殊警察だ。

 頭文字をとって、通称「AVC」呼ばれている。俺の所属する組織。


 要するに俺の仕事は、性に(みだ)れたこの国に秩序という名の処方箋を叩きつけることだ。


   ◇


「ん~? んー……」


 池袋の某所にある高層ビル。その各階を繋ぐエレベーターに乗り、取り付けられた鏡を覗き込みながら自分の身だしなみをただす。

 高級感の漂うスーツを着てる上、これから上司に会うとなればキチッとしておかなければマズい。

 すぅぱぁなエリートである俺の名前に傷がつく。


「よし、今日も決まってんね。流石は俺!」


 一通り自分の身だしなみと整えた俺は、鏡にいる自分に向かってキメ顔をする。

 もちろん、エレベーターに乗っているのは俺一人。

 俺が今乗っているエレベーターは通常のものではない。ビルの点検に来る作業員が使う非常用エレベーターだ。

 そして、用があるのは存在しない四十五階。階層ボタンを正しい順序で打ち込むことで入ることが出来る、隠された階。ビル自体は普通の高層ビルだ。

 

 日常に溶け込むように隠された階。それこそが、俺達AVCの拠点となる。

 アダルト・ヴァイオレンス・クライム、池袋支部だ。

 

 などと身だしなみを整えている間に、チーンという音が鳴ってエレベーターが止まった。階層を示す針は四十六階のすぐ左隣に位置している。

 どうやら目的地に着いたらしい。

 エレベーターのドアが開かれ、俺は四十五階に足を踏み入れた。と同時に、


「やっときたの。随分と遅かったじゃない?」


 エレベーターのドアと直結するように広がる空間。さながら馬鹿でかい社長室のように、部屋の中心やや奥気味に配置された長いデスク。

 真夜中だというのに窓のブラインドを閉め、東京の夜灯りが窓から入ってこないから部屋は暗い。俺がさっきまで乗っていたエレベーター内の方が明るいだろう。

 故に、俺の到着を待っていた上司の顔すら見ることが出来ない。

 しかし、そこに誰がいるのかを知っている俺は、両腕を広げ、呆れながら机へ向かって歩く。


「勘弁してくださいよー。俺がどれだけ忙しいか知ってるでしょ?」


 机に近づくにつれ、その上に置かれた唯一の光源であるランタンが、椅子に座る人物の顔をほんのりと照らし出す。

 そこに足を組んで座るのは、さながら社長のような雰囲気を纏った女性だ。


 ウェーブのかかった地毛の茶髪、こっちの心を見透かそうとするような目、透き通る白い肌と、細長い手足。これでもかと言うほど恵まれたその体を、舞踏会にでも出るようなドレスで包んでいる。

 まるで天界に住まう人間のような美貌だが、ただの美人と思って接すると痛い目を見ることになるだろう。

 この人、マジでなにを考えているのかさっぱり分からん。長年の付き合いになるが、考え方の癖がまるで理解出来ない。

 ずる賢く、狡猾で、常に獲物にとっての致命傷を負わせようとしているような。蛇女ではないが、蛇みたいな生態の女だ。さしずめ白蛇ってとこか。

 そんな上司の座る前にある机に手をついて、俺は話を続けた。


「……ねぇ? 勢度(ぜいど)さん」

 

 しかし、そんな俺の言葉に上司はすぐには応えない。含みのある柔やかな笑顔をして、少しだけ顔を傾ける。勢度巳波(ぜいどみなみ)、まぁじで掴み所のない上司だ。


「まぁ、君は私の優秀な部下だからね。当然知っているよ」

「へーへー。それで? 仕事終わりの俺を呼び戻すなんて、今度はどんな面倒事を片付けりゃいいんですか?」


 するとまたしても勢度さんは答えず、代わりに一通の手紙を机の上にはしらせた。


「案件、ではないかな。私にとっていい知らせだよ」


 机の上に腰をかけていた俺は、その手紙を手に取り眺める。その手紙にはAVC東京本部の封蝋(ふうろう)がされていた。

 そこから察するに、勢度さんに昇級の知らせでも来たのだろう。

 だが、勢度さんは俺に対して何か挑戦的な笑みを浮かべている。ということは間違いなく、言葉通りの意味ではない。

 などと、手紙を開けずに思考を巡らせていると、それさえ見越していたように勢度さんが口を開いた。


「……早い話、君の解雇が決定したよ」

「は――?」


 まさか自分が聞く羽目になるとは思いもしなかった言葉を言われて、俺は机に座ったまま固まった。そんな俺をみて愉快そうに口角を上げる勢度さん。


 解雇? え、は、クビ⁉ どういうことだってんだ。こちとら仕事片付けてきたばっかだぞ⁉


「クビぃ⁉ この俺が⁉」

「うん、そう。あと顔近いよ、君」


 あまりの驚きに俺は机から跳ね降りて、勢度さんの顔を覗き込んで聞き返す。すると、勢度さんは表情一つ変えずに顔を離しながら答えた。


「なぜ⁉」

「心当たりがあるんじゃないかい? どうだろう、祥司(しょうじ)君」

「心当たり……?」


 勢度さんに言われたことを反芻して、自分の日頃の生活を振り返る。

 勤務態度は真面目。成果もちゃんと出している。上司に対する態度がなっていないからか? いや、勢度さんが「それで構わないよ」と言ったしな。


「いや、全く。これっぽっちもないですわ」

「本当に――?」


 しつこく確認してくる勢度さんに、俺は拳を握りしめて力説した。いかに俺が、勢度さんにとって優秀な部下であるかを。クビなんて論外だ。


「だぁって! 一年生存率が十パーセントに満たないこの組織に五年も勤め! 数々の性犯罪を事前に阻止してきた実績を持ち? 組織内で「エリート清史郞(せいしろう)さん」なーんて呼ばれちゃってるこの俺が⁉」


 俺が力を込めて説明している間、勢度さんは呆れ顔をしていた。

 それはもう、蛇がせっかく捕らえた獲物を捨てるが如く。途端に興味が失せたように。

 それを見た俺は、力説しても意味がないことを悟った。


「クビって言われても説得力ねーですよ」

「……相変わらず。気分の上下が激しいね、君は」

「それほどでも」

「褒めているわけじゃない。そのキザったらしいお辞儀は要らないよ」

「またまたー。にしても、AVCに人気者を排除しようと動けるだけの余力があったなんて驚きですよ。万年人手不足だってのに」


 さっき勢度さんに力説したとおり、AVCの一年生存率は十パーセント以下だ。その十パーセントを生き残った強者でも三年以内には必ずと言っていいほど辞めていく。

 まあ、その理由は理解出来る。特殊な訓練を受けるとはいえ、見ず知らずの他人の裸や淫らな行為を延々見せ続けられる事を生業としているような組織だ。

 もし仮にそれに慣れたとして、今度は知り合いと遭遇する可能性もある。

 赤の他人の現場であれば、慣れてしまえばどうにでもなる。が、知り合いの現場は慣れるなんてもんじゃない。普通に言って吐き気を催すレベルだろう。


 感覚がバグるし、気が触れて当然。むしろ俺が強すぎるだけって話。

 だからこそ、AVCにとって俺は大変貴重な人材であるわけで。

 その俺をクビにしようだなんて、とんだバカな話である。

 

 のだが、


「いや、君の解雇理由は正当性のあるものだよ。祥司君」

「はぁ? いやいや、だからねぇ? 何ですぅぱぁなエリートの俺がクビになるんですかって――」

「君の行動のせいによって、AVCという組織が明るみに出てしまうから」


 勢度さんがそう口にした瞬間、俺は全身が強ばった。

 しかし、そんな俺に勢度さんは一瞥もくれず椅子から立ち上がると、窓の方へと歩きブラインドの隙間から夜の東京を眺める。


「君の成績は優秀だよ。AVCという組織は、君なしでは成立し得ないと言えるほどに、ね。だからこそ、今まで君が変装の時にオーバーヘッドマスクを着用しなくても許容されてきた。でも、限度を超えてしまったようだね」


 窓の外を眺めながら話す勢度さんの言葉を黙って聞く。たしかに、俺がクビになる可能性があるとしたら理由はそれだろう。


「……すでに、一部の業界には我々の存在を認識され始めている。これがどれだけ危険な状況か、分からない君ではないでしょう?」

「ふぅ……。ま、分かりますよ。俺の顔が割れて、組織の存在に気付かれ始めてるって事でしょ」


 オーバーヘッドマスクとは、要するに変装マスクのことだ。多少の条件はあるが、自分の顔を偽る最もアナログ的な方法にして、効果が高いもの。

 性犯罪の摘発や対象の保護を行うとき、AVCはそのマスクを使って変装しなくてはならない。が、俺はそれを怠っていたわけだ。

 そんな俺の怠慢により、性犯罪を阻止する活動を行っている組織がある、と感づかれてしまったのだろう。優秀であるが故に様々な現場へと赴いてきた弊害か。


 このまま俺が活動していたら、AVCという組織が明るみに出るのは時間の問題。

 俺という戦力を失うか、組織を危険に晒すか。

 その両者を天秤にかけ、結果俺が切り捨てられることになったということだ。

 だが――、


「そうは言われてもですね。俺はマスクを被るのなんてゴメンですよ」


 この話をわざわざするということは、俺に対して改善を求めているのだろう。そもそも、組織の存在が公になる問題は俺がマスクを着けて活動すれば解決する。

 だが、俺にはどうしてもマスクを被りたくない理由がある。単にイケメンな顔を隠すのが勿体ないと思っているわけじゃない。


「どうしても、ダメかな。マスクを被って行動するだけなのだけど」

「ダメっすね。だいたい、勢度さんが俺に言ったんすよ? マスクを被りたくないなら被らなくていいって」


 それに、アンタは理由を知ってるだろ。という言葉は飲み込んで勢度さんに言う。

 すると勢度さんは溜息交じりにこちらへ振り向き、窓へと寄りかかって告げた。


「――そう言うと思っていたよ。だから既に、私が上に掛け合っておいた。これで貸し一つ、いいね?」


 そう言いつつ、胸の谷間から一枚の写真を取り出して俺へと投げ渡してくる。

 その写真を受け取り確認すると、写っていたのは一人の女性だった。


「今、渡した写真の子は夢魔体質持ちだよ。君には、その子の監視と体質改善をやって貰うからね」

「は……?」


 勢度さんの言葉の意図が読み取れず、思わず聞き返す。と、勢度さんはその美貌に不敵な笑みを浮かべて告げた。


「君が顔を隠さない以上、この組織がバレるのは時間の問題だ。――なら、その前に事件を解決してしまえばいい。単純な話でしょう?」

「……まさか」


 まさかこの人、とんでもない事を俺に押しつけたんじゃなかろうか。


 今まで研究者や俺達AVCが調べても、対処法の一つ程度しか分からなかった「夢魔体質」を。

 その解決を、俺一人でやれと言ってんのかこの人。どう考えても無茶だろうが。


「無理、だとは言わせないよ。そして辞退もナシだ。今回の依頼を達成できた暁には、君への貸しもチャラにしてあげるよ」

「んなこと言ったって――」


 無理難題を、普通の依頼のように押しつけてくる上司にささやかな反抗をする。

 しかし、勢度さんは俺を試すような、値踏みするような瞳で言う。


「出来るはずだろう? 君は優秀な私の部下であり、エリートなのだから、ね」


 そう言われてしまってはやり遂げるしかない。いずれにしろ、これを断ったところで前の話に戻るだけだしな。


「……分っかりましたよ。期限はいつまでっすか~」

「できるだけ早く。手段は問わないよ。どうにかして、夢魔体質の排除方法を突き止めてくること」

了解(ラジャー)――」


 短く返事をして、俺は勢度さんへと背を向ける。そして、エレベーターへと向かった。

 新しく自分のターゲットとなった人物の写真を眺めながら。



最後まで読んで頂きありがとうございます。


この作品は、作者が思った「NTR」や「レ○プ」系のエロ本への回答です。

そういう本に出てくる女の子たちは可愛いんだけど、救いがなさ過ぎる。というわけで、そんな女の子たちを颯爽と助けていく主人公の話なんか面白いんじゃないか? という意図で書き始めました。


そういった意図が上手く伝わっていれば幸いです。

こういう、エロを題材にした話を書くのは初めてで、拙いところがあるとは思いますがご容赦を。


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