プロローグ
こちらの作品は性犯罪を題材にしており、軽度な行為の描写が含まれます。
そういった内容の話が苦手という方は、読まないことをおすすめします。
作者的な制限は十五歳以上です。ですが、あくまで作者にとっての感じかたなので参考程度に。
それでも構わないという方のみ、読み進めてください。お願いします。
事の発端は、二〇二五年に当時の政府が打ち出した「新次世代支援政策」というものだったらしい。
なんでも、当時の日本は人口が減り続け、少子高齢化により国の存続が危うくなっていたんだとか。
俺も昔の記憶を辿れば、小学生の頃はそういう話をよく耳にした気がする。
日本が終わる、とか、子供を作れ、とか。
ところが今、暗黒時代とも呼べる二〇二五年から二十四年が経った現在は、少子高齢化なんて言葉を耳にする機会はなくなった。
実に喜ばしいことだ。結婚する男女が増え、子供が増えていくことは国の発展に繋がるだろう。
まぁ、俺にとっては「それ」こそが最大の悩みの種であるのだが。
「――全く、この国は常に瀕死じゃないとやっていけないんかね」
都内某所にあるビジネスホテルの廊下。無数に並ぶドアの内の一つ、その近くの壁に背中を預け、周囲に誰もいないことを確認し愚痴る。
そう。少子高齢化による存続の危機を回避した我が国は、別の事態で存続の危機に陥っているのだ。性懲りもなく。
夜が更けてきたこんな時間に仕事をしなければならないのも、ビジネスホテルの従業員の制服を拝借して変装しなければいけないのも。全て我が国の政府の尻拭いだ。
そんな後始末をさせられている身としては、愚痴の一つくらい言いたくもなる。
とはいえ、やらざるを得ないのだ。放棄してしまえば国が終わるのだから。
「はぁ……」
溜息一つで自分の思考をクリアにし、スマホに接続した無線イヤホンを耳に刺す。
そして、一番近くにあるドアと床のわずかに空いた隙間から、小さな六角形のチップを足で滑り入れる。
さぁ、準備は整った。
後はスマホとチップをイヤホン同様に無線接続するだけ。
スマホの画面に表示される確認画面を、何のためらいもなく俺は許可する。
するとあら不思議――、
「あっ……んっ! そこ、ダメ! 気持ちいいの――ッ」
実に艶めかしい、少女の喘ぎ声が聞こえてくるじゃあありませんか。これこそがこの国の癌であり、俺が駆除して回らなければならない害獣だ。
俺はイヤホンから少女の喘ぎ声を確認するなり、スマホを手早く操作して上司から送られてきた画像を開く。
そして、制服の胸ポケットから取り出した二枚のカードと照らし合わせる。
制服とは言ってもただのスーツと大差ないが。
今、この扉の向こう側にいるのは、十七歳の女子高生と四十七歳の会社員男性。
つまるところ、いわゆる「パパ活」というやつの真っ最中というわけだ。
それでもって、俺の手の中には社員証と学生証のコピーが一組。これからやることは至って単純、そして明快だ。
「……現在時刻、二二時一七分。粛正開始」
確認を済ませたスマホと二枚のカードを懐に素早くしまい、あらかじめ用意していたマスターキーを使って、俺は部屋の中へと侵入した。
◇
「さーて、お二人さん。君らはこれから警察のお世話になることが確定した訳だけど、その前に申し開きはあるかい?」
俺が部屋の中へと突撃した数分後。備え付けの椅子の背もたれに腕を乗せるようにして座り、ベッドの上で後ろ手に手錠を嵌められている裸の二人に話しかけた。
「あるなら、しょーがないから俺が聞いてあげよう。おまわりが来るまでの数分だけどね」
「うるせぇ‼ まず服を着させろ、この野郎‼」
そんな俺の寛大な申し出に、四十七歳の会社員男性の方が声を荒げて応える。
「それは無理な話ってもんだろー。君らには証拠として、そのままでいて貰わにゃいけないんだから」
「ふざけんな‼ だいたい、部屋に勝手に入ってくるなんて犯罪だろ! 頭湧いてんじゃねぇのか⁉」
「性犯罪者にそれを言われてもなぁ。悪いけど、ちっとも犯罪とは思わないよ?」
いや、間違いなく犯罪ではあるのだが。これは仕方がないというものだ。
犯罪を阻止するために罪を犯すのは元も子もないが、ある程度の権力がなければ犯罪を阻止することは出来ない。
つまるところ、俺の行いは犯罪を阻止するために特例として認められた権力。
よって犯罪ではない。……犯罪を阻止する目的以外で権力行使すれば犯罪だが。
生憎、今の俺は公務執行中だ。犯罪を阻止する目的で権力行使している。
そもそも、こんな屁理屈に一々付き合っていたらこっちの身が持たない。
「だいたいさぁ、おっさんが悪いんだよ? 未成年に手出すから。未成年はダメでしょ、未成年は」
「あぁ⁉ 十七歳なんだから成人してんだろ! 何が犯罪なんだよ!」
「あのねぇ、おっさん。いつの時代の話してんだよ。成人の年齢はとうの昔に二十歳になってんだけど?」
「だまれ‼ 俺が成人したときは十六だったんだよ‼」
「そーかそーか。その言い分はおまわりにでも聞かせてやれよ」
成人の年齢が二十歳になったのは、ちょうど俺が四歳になった年だった。つまり二十年前。てことは、このおっさんは二十年前から何も変わってない訳か。恐ろしい。
などと、老いによる認識の齟齬に恐怖を感じていると、それまで困惑していただけの女子高生が口を開いた。
「あ、あのぅ。私、脅されていただけなんです。だから助けてください」
まるで物乞いのように、猫が甘えてくるときに出すような甘ったるい声で媚びる女子高生。そんな女子高生に俺は聞き返す。
「――へぇ? 無理矢理だったんだ?」
「そ、そうなんですぅ! 逃げたかったんですけど、怖くて逃げ出せなくってぇ」
「あ、そうなの? 俺てっきり合意の上でやってると思ってたんだけど。てことはこれも俺の聞き間違いってことかー」
そう言いながら、スマホで録音した彼女の喘ぎ声を大音量で再生する。途端、女子高生は全て悟ったのか、顔面を蒼白にして震え出す。さぞ恥ずかしいに違いない。
そのまま女子高生の前で、あえて見せるようにUSBメモリを取り出し、スマホに繋げる。そしてその音声データを落とし込んだメモリを彼女に投げ渡した。
「それ、あげるよ。俺からのプレゼントっつーことで」
自分の目の前に落ちたUSBメモリを見て、女子高生は少し俯いた後、再び顔を上げた。そして、
「テメェ! ちょっと顔が良いからって調子のんなよ‼ テメェのこと訴えてやるからな! さっきからウチの裸ジロジロ見やがって!」
本性を現わすかのように、猛り狂って俺に罵声をぶつけてくる。
「おぉ、怖い怖い。訴えられるのを期待して待ってるよ」
無論、裸をジロジロ見ているわけがない。風評被害も甚だしい限りだ。
俺はちゃんと公務をこなしているだけ。この女子高生が「夢魔体質」でないかを確認していたわけだ。私欲で見ていたわけじゃない。
そもそもだな、こちとら女子高生の裸なんて見慣れているんだよ。いまさら一女子高生の裸ごときに興奮できるものか。
全く、自分の容姿にあぐらを掻いて調子に乗っているのはどっちだか。俺の顔が良いのは事実だが、俺は別に自分の容姿をひけらかしているわけじゃないしな。
「はあぁぁ……ったく。いいか? おまわりが来るまで大人しくしてろよ? そうすれば軽い指導くらいで済むかもしれないから」
ざっと確認して女子高生が夢魔体質じゃないことは分かった。このおっさんも、おそらく自分の意思で行為に及んでいたのだろう。であれば、犯罪としては軽度なものだ。
俺が生まれたばかりの頃なら、犯罪として扱われることもなかったかもしれない類い。これなら警察も罰金程度で済ませるだろう。
この程度の事件で、現場に突撃しないといけなかった俺としては虚しい限りだが。
なんていう感傷に浸っていたのだが、そんな俺を無視して裸のままの二人は醜く言い争う。互いに今回の責任をなすりつけあう形で。
「おいおいおい。裸のまま言い争うなよ、見苦しい」
「「テメェが裸のまま拘束してるからだろうが‼」」
息ぴったりに俺への反論をしてくる二人。そんな二人に向かって俺は首をすくめてみせる。意外にお似合いの二入なんじゃないか?
と、ちょうどその時ポケットに入れた俺のスマホが小さく震えた。
「さて、そんじゃあ俺はお暇しますわ。嘘ついて刑罰重くするなんていうバカなことすんなよ~」
いがみ合う二人にそう言って、俺は手を振りながら窓の方へと足を進める。
そして、窓の鍵を開けると思い切り開け放った。
「「は?」」
呆気にとられる二人の声を背中で聞きながら、俺はベランダから身を躍らせる。
投身自殺ではない。訳あって、俺は警察と会うわけにはいかないというだけだ。
さっきのスマホのバイブレーションは、上司から送られた警察到着の合図。それを受け取った俺は、当初の予定通り事前に借りた部屋へと戻る。窓の外から。
一応ロープで繋いではいるが、スタイリッシュに。
俺たち「AVC」の人間は、警察はおろか一般人にすらその存在を知られてはいけない。
故に毎度、こんな感じで面倒くさい撤退方法を強いられるわけだ。
「ふんふふ~ん」
仕事が終わって上がった気分のまま、鼻歌交じりに元着ていたスーツへと早着替え。
今頃、さっきの部屋は警察による事情聴取が始まっている頃合いだろう。
いや、その前に服を着させて貰っているかもしれないな。
まあいい。俺の録音したボイスレコードと二人の身分証のコピーは置いてきた。
完璧な仕事だ。抜かりはない。後は警察のお仕事というやつだ。
「Mission・Complete――ってな」
誰も聞いちゃいないが、そう呟き借りていた部屋のドアを開ける。
そしてロビーで支払いを済ませ、ビジネスホテルの建物から外へと出た。
瞬間、冷たい風がスーツに包まれた俺の体を吹き抜ける。
世の中の季節は冬、人肌恋しくなる季節だ。そして、俺にとっての繁忙期。
「うん、お疲れ様でした! 俺!」
冬の人口的な灯に照らされた夜空を眺め、俺は伸びをしながら自分を労った。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
この作品は、作者が思った「NTR」や「レ○プ」系のエロ本への回答です。
そういう本に出てくる女の子たちは可愛いんだけど、救いがなさ過ぎる。というわけで、そんな女の子たちを颯爽と助けていく主人公の話なんか面白いんじゃないか? という意図で書き始めました。
そういった意図が上手く伝わっていれば幸いです。
こういう、エロを題材にした話を書くのは初めてで、拙いところがあるとは思いますがご容赦を。