バスの中で
私は泣いている。
夜行バスの中、一人泣いている。
いや、一人ではない、のかもしれない。
隣に、彼がいる。
3年半、ずっと好きな彼がいる。
うつらうつらと体を揺らしながら、睡魔と戦っている。
その姿すら愛おしくて、触れたくなる。
でも、触れてはならない。
彼に、触れちゃいけない。
だって、私たちは友達だから。
親友だから。
見惚れてしまうから、私は窓の外を見た。
私も眠い。疲れた。
瞼を閉じ、数を数える。
落ち着け、私。
その時、肩に重みを感じた。
息が止まった。
初めて、喉からヒュッて音が出た。
恐る恐る、隣を見た。
私の肩で彼が眠っていた。
きっとこれは夢だ。
夢に違いない。
そばで聞こえる寝息、私の匂いじゃない匂い。
どんなにバスが揺れても、彼は起きない。
こんなにも近くにいるのに
こんなに、思っているのに
ひとつになれない、結ばれない。
悲しい、悔しい、寂しい。でも、この状況が嬉しい。
言葉に表せない感情が、胸を渦巻く。
いつの間にか、両の目の視界がぼやけ、ピトピトと私のスカートに水滴が垂れた。
あぁ、虚しい。ほんとに滑稽だ。
想いを伝えても、きっと君は首を横にふる。
それだけは確かだ。
そうなる未来が見えてしまったからには、私は覚悟しなきゃならない。
この想いを、伝えずにはいられないから。
でも、これだけは許して欲しい。
私は、君の髪にキスをした。
そして、目を閉じた。
「バスターミナル前、バスターミナル前になります」
車内放送に目が覚める。
「あ、よかった、起きた。」
私はいつの間にか、窓にもたれかかっていた。
「あれ、私、寝てた?」
「うん。ねえ、泣いてた?」
はっと気づいて、私はすぐに涙を拭った。
「コンタクトで乾燥してたのかも」
慌てて誤魔化した。
「そっか。じゃ、帰ろ」
そういい、彼は立ち上がって先にバスを降りた。
「…まだ、暖かい。」
私は、自分の肩に触れてから、すぐに立ち上がった。




