ずっと隣に
「何故、分かったのですか」
こんなに変装しているのに。声も出していなかったのに。そんなことを思っていたら、ライン様が目を見開いたままこちらへ早足で近づいてきた。さすがにこれは怖かった。
「部屋に入らせてくれ」
あまりの形相に断ることができず二人で部屋に入った。別にライン様ならいつだっていいし。
メイド姿を見られて無駄にもじもじしてしまう。広い王宮内でまさかライン様に会うなんて予想していなかった。
でも、私の部屋に来ることはあるんだから、部屋近くなら会うこともあるよね。考えが甘かったわ。
「やはり、私が不満なのだな」
「へ?」
私が何かを言う前にライン様が突然蹲りました。うわぁ、このライン様久々に見た。そういえば、こんなだった。私の前ではだいぶ落ち着いた表情になってきてたから懐かしい。
「私の妻という立場が嫌で、手に職を付けて王宮から出ていくと」
「メイドの恰好していただけなのに話が飛躍しすぎです」
ここまで後ろ向きなのもある意味才能なのでは。曲がりなりにも次期皇帝という地位にいるはずなのに。
顔を真っ青にさせながらライン様が一歩一歩近づいてきた。
「本当か……」
「本当です。私、毎日ライン様といられて楽しいです。ずっとお隣にいさせてください」
「アリア……ずっといてくれ……」
両手がおずおずと前に出されたので、それを私の両手で包んでみた。ライン様が変な声出した。
「ぴゃッ」
あんまり驚くから手を離してしまった。もちもちの手、触り心地良かった。
「それはまだ早いというか」
「手を繋ぐのがですか?」
「ああ、いや、このくらいはいいか」
ぶつぶつ呟くライン様ににっこり微笑んで言う。
「そうですよ、夫婦なんですし」
「夫婦……」
ライン様が上を向いて目を閉じた。噛みしめるようにもう一度夫婦って言った。
え、すっっっごい、可愛いんですけど。
年齢は今二十歳でもうすぐ二十一歳になると聞いている。こんなに可愛い二十歳がいていいの。皇子っていうと十代から女性に慣れていると思っていたんだけど、こんなに純粋な人いるんだ。