先輩メイド
「貴方はここやって」
「はいッ」
年配のメイドさんに箒を渡される。おお、アイテムゲット。よりメイドっぽくなった。せっかくだから掃除もちゃんとやろう。
ここと言われた範囲がどこまでか分からないので、私は箒でどんどん廊下を掃いていった。お、雑巾の束発見。そこか一枚取り、バケツに汲まれた水で雑巾を濡らして絞る。そして、窓の桟や汚れが残る床の端を拭いた。
これは結構やりがいがある。毎日皆が掃除してくれているけど、土足だからすぐ汚れていっちゃうんだよね。かと言って、入口で靴脱いでくださいとはいかないし。
「あ、こっちも」
夢中で掃除をしていたところでふと気が付いた。
私、掃除するためにここに来たんじゃなかった。
やっばい、周りの人たちの会話全然聞いていなかった。王宮の雰囲気探るんじゃなくて綺麗にしてどうするの。いや、綺麗にするのは良いことだけれども、そういうことじゃない。
「なかなか筋が良いじゃない」
急に上から声が降ってきて、しゃがんだ姿勢のまま顔を上げる。メイドさんがこちらを見下ろしていた。
「有難う御座います」
掃除を褒められて素直にお礼を言うと、メイドさんがにっこり満面の笑みで頷いてくれた。
「新人さん? 掃除担当なのね。私はエルーダ、よろしく」
「はい。私は……アリィです。宜しくお願いします」
エルーダさんは普段は洗濯担当らしいけど、人手不足で今日は掃除を手伝っているそう。私たちは他愛もない会話をしながら掃除を続けた。
「エルーダさんはもう三年も働いているんですね」
「そう、ベテランよ。とはいかないけど、結構慣れたと思う」
「働いていて、大変なことってありますか?」
「大変ねぇ……強いて言うならライン様かな」
来た! ライン様の噂を聞くチャンス到来!
「ライン様はどんな方なんですか?」
「うう~ん、しいて言うなら、暗い」
エルーダさんが腕組みをしながら答える。
「暗い……怖いではなく?」
「怖くはないよ。まあ、淀んでいて雰囲気は怖いけど、何か言ってくるわけじゃないし。ただ、第一皇子っぽくはないよねぇ。せめて、不満がある時どうしてほしいのか意思表示は欲しい」
「そうなんですか」
おや? パパたちから聞いたライン様の噂と違うぞ?




