知ってほしい
「食べても?」
「はい」
「では頂く」
一番手前にあった焼き菓子がライン様の口に運ばれる。見た目は焦げていないし合格点、問題は味……!
「うん、美味しい」
「有難う御座います!」
やった! 半分はお世辞かもしれないけど、もう一枚食べてくれているから不味いってことはないはず!
丁寧に箱が閉じられ、ライン様が立ち上がる。
「残りは大切に食べる。これは何日持つか分かるか?」
「冷蔵庫に入れたら三日程かと」
「そうか……三日だけか」
「また作りますので!」
そう言うと、ライン様の表情が明るくなった。
帰っていくのを廊下に出て見送る。最近、彼の顔を見て機嫌が良いのか悪いのか分かるようになってきた。他の人から見れば無表情かもしれないけど、よく見ると口の端がちょっと動いたりする。
笑うことはあまりないけど、意外と感情豊かなのかもしれない。
どうしよう。憂鬱な結婚だったはずなのに、毎日がすごく楽しい。それもこれもライン様のおかげだ。こんなに優しい人、滅多にいない。ライン様は私のことどう思ってるんだろう。嫌われてはなさそうだけど。
「……せや」
先生の授業を受ける以外妃らしいこと何もやっていないけど、暇な私だからこそライン様のお役に立てることがあるかもしれない。
ライン様が好かれていないのはあくまで悪い噂が広まっているのが原因なんだから、私がどれだけよくしてもらっているかという噂が広まれば、ライン様への評価も変わるのでは!?
ライン様は良い人ですって触れ回るのは怪しいけど、私がいつもにこにこして幸せアピールして、誰かとその話題になったら褒めてみるというのを繰り返せばいける気がする。
見た目がすっきりして、妃の私も幸せそう。これだ!
ということで、シュリオ先生の授業をにこにこで受け、その後の自由時間でお廊下を歩く時もにこにこで歩いてみた。いつ何時メイドさんたちに会うか分からないからね。
日課の図書館は誰もいなかったし廊下でも一人しかすれ違わなかったけど、段々成果が出てくるはず。




