優しい皇子
ライン様が喜んでくださるなら、変顔した甲斐があるってものよ。
「ううん……自分に重力操作は難しいですね」
「自身に使うのは魔力を消費するからな。時間はあるのだから、ゆっくりやればいい」
「はい」
私たちは結婚したばかりでまだお披露目会もしていない新婚夫婦。まだまだ時間はたっぷりある。
一時間トレーニングを行い、今日の分が終了した。ライン様は私と違って公務が忙しいので、一時間という時間を作ってくれるだけとても有難い。
そういえば、セリさんからライン様が毎日いらっしゃいますが体調は大丈夫ですかって聞かれたけど、あれは何だったんだろう。
ライン様といるだけで体調崩すみたいな噂が流れているとか……そうだったらツライ。
「終わったことだし、これを開けてもいいか?」
「今ですか? いいですけど、少し恥ずかしいです」
「今すぐ見たいと言う私の方が子どものようなのだから、貴方が恥ずかしがることはない」
そうフォローしてくれるけど、恥ずかしいものは恥ずかしいんです。お菓子作りなんてほとんどしたことがなかったから、美味しくないかもしれないし。
調理場の人たちは美味しいって言ってくれたけど、妃相手の社交辞令だと思う。私はまあまあ美味しかったけど、私、なんでも美味しく感じ舌を持っているので参考にならない。
箱を開ける手を止めたいけれども、死んだ瞳がなんだか嬉しそうなので止めることができない。結局開けることには変わりないから、いっそここでとどめを刺された方がいいのかも。
「焼き菓子か」
「はい、お口に合うといいのですが」
「貴方が作ったのだから合わないことはあり得ない」
うう、イケメンが過ぎる……。二人きりの空間で、ただのお飾り妃を持ち上げる必要なんてないんだから、ライン様の本音ってことだよね。嬉しくて涙が出そう。
ここへは第一皇子が二十歳を過ぎて結婚していないのはまずいということで、婚約者だった私が嫁いだと聞かされているけど、こんなに優しくしてもらえるとは思ってもみなかった。




