帰宅
「……お、おお……ッ」
魔力の放出方法を試して三十分、ついに目の前に置いたハンカチがぱたぱた揺れた。
これ、出来てるってことだよね!? ハンカチという軽いものですら浮かせられていないけど、揺れたってことは重力操作ちょっとだけ出来たってことだよね!
「ふう」
いやぁ、額に汗かいちゃった。
今日のところはこのくらいにしよう。初日に張り切り過ぎて途中で力尽きたら大変。部屋にある時計を確認すると、ライン様が戻られるまであと一時間に迫っていた。
「残りの時間はこっちにしよう」
今度は今まで読んできた魔法書とは全く違う料理本を手に取る。料理は人並に出来る、と思うけど、転生してからはさっぱりしていない。
それに、元の世界と似た料理はあるけど、肉じゃがとかカレーとか、日本で定番のものは無かったりする。
ここの料理に慣れるためにもしっかり読み込んでおこう。それに材料さえあれば、いつかカレーを食べられる日が来るはず。ハンバーグっぽい料理は出てきたことあるし。
「いつかラーメン食べたいなぁ」
涎が出そうになりながら、料理本を読み続けた。
「アリア様、ライン様がお戻りで御座います」
「はいっ」
ノックの後、ドア越しにセリさんの声が聞こえた。
しまった。大門まで出迎えた方がよかったかもしれない。引きこもり妃やん。
「お出迎えせず申し訳ありません! おかえりなさいませ」
ドアを開けてすぐ腰を折り曲げて謝る。ライン様の靴は見えているのに声が返ってこない。ヤバい、怒らせたかな。
「よい」
ようやく聞こえた声に顔を上げる。怒ってなかった。と思ったら、ライン様めちゃくちゃ眉間に皺が寄っていらっしゃる!
「それでは失礼します」
──ああッセリさん!
機嫌が悪そうな第一皇子を置いて、セリさんは颯爽と去っていった。
お怒り(恐らく)の旦那様と二人きり。気まずい以外の何ものでもなく……。
「これ」
「わ」
そろりとライン様へ向くと、花束を差し出された。小ぶりだけど、水色の花をメインに沢山の種類が使われていてすごく綺麗。
「私にですか? 有難う御座います」
「私にもらってもいらないと思うが、遠征先の花屋で良い花を見つけたから」
「いります! とても嬉しいです」
そう言うと、ライン様がその場に崩れ落ちた。