作戦
「ライン様?」
そっと体を揺すってみると、ライン様から地獄を這う声がした。
「私のような醜い出来損ないでは、貴方も悪く言われるだろう」
「もし私が悪く言われても何も気にしません。ライン様は悪くないのですから、謂れのない悪口を気に病む必要は無いでしょう?」
たった一日だけど、ライン様の性格が分かってきた。そして勘違いされそうな感じも分かった。きっと、見た目やちょっとした言動で冷たいと思われて噂が噂を呼んだんだと思う。
ロウ様が尾ひれを付けた可能性は今は考えないでおこう。
「……私は疫病神なのだ。私の傍にいると不幸になってしまう」
「うう~~~ん……」
これはかなり根強い負の感情。でも、妻になったからには、夫の成長を手助けして立派な姿を見てみたい。元の造形は悪くないし、自信され持てればもっと皇子らしくなると思うんだけど。
「そうだ」
「なんだ……?」
私が呟いたら、ライン様が少しだけ顔を上げてくれた。よかった、涙までは出ていなかった。
「お優しい中身を知って頂くのはもちろんですが、まずは外見を明るくさせるのはいかがですか? 急で難しいのであれば、自信をつけるために少し体重を落としてみるとか。いえ、私はこのままでも十分魅力的だとは思いますが、健康にも良いですし」
「外見……」
ダメだ~! 良い説得の仕方が分からない。これでは太っているより痩せている方が世間的に良いですよってマジョリティを押し付けている。太っているままの方がお好きな方かもしれないのに。
私が悩んでいる間に、ライン様がゆっくりと立ち上がった。
「あの、私が勝手に申し上げただけなので、ご無理はなさらずに」
「やる」
「え」
「やる」
私の予想とは違い、ライン様の瞳は燃えていた。
素敵。ならば、私は全力で応援するのみ!
「素晴らしいです。一緒に頑張りましょう!」
「うん」
死んだ瞳に僅かな光を私は感じた。
「私、すぐに練習メニューを考えますね」
「わっはなッ」
「あ、すみません」
テンションが上がって思わず手を握ったら、思い切り振り払われちゃった。いくら結婚したといっても初対面の相手を触るのは失礼だったわ。