良き弟ではないかもしれない
せめてもとテーブルマナーをしっかり行い、和やかに食事の時間が終わった。始終ロウ様が話しかけてくれて、ライン様は問いかけられた時に「ああ」と一言言っただけだった。ライン様、ほろり。
でも、ロウ様ってばお兄様のことを心配して良い弟さんじゃない。冷たくされているらしいけど、味方がいるならよかった。
「御馳走様でした」
とっても良い気分で立ち上がると、ロウ様も笑顔で一緒に立った。
「それでは、お先に失礼します」
「はい、楽しいひと時を有難う御座いました」
「こちらこそ、貴方のような華を近くで拝見出来てとても有意義な時間でした」
わぁ、兄の妻相手に素晴らしい口説き文句。これならロウ様と結婚したいと申し出るご令嬢沢山いるんだろうなぁ。ロウ様がライン様の後ろを通る際、一瞬振り返って鼻で笑った。鼻で笑った!?
え、今、「ふ……」みたいな笑みを浮かべたよね? いやいや、気のせいかな? 気のせいであってほしい。うん、多分馬車でごとごと揺られてドライアイになって目の調子が悪いんだ。そうだそうだ。
そうじゃないと怖すぎるよぉ……。
はッライン様は──一点を見つめて微動だにしていなかった。これはこれで怖いか。とりあえず、ライン様は気が付いていないみたいだから、今のは私の勘違いとしておこう。
「アリア、私の部屋へ」
「承知しました」
闇から這い出たような低い声で誘われる。私に断る理由は無いので、そのままライン様についていった。
ライン様と私の後ろに二人続く。ライン様付きの人、名前聞きそびれちゃった。話す機会があったら教えてもらわないと。
部屋には二人だけで入った。廊下でセリさんたちは待ってくれているらしい。
ライン様を応援するって決めたけど、二人きりはやっぱりちょっと緊張するなぁ。
そう思いながらライン様を見たら土下座していた。なんで!?
「ちょ、ライン様、いかがなさいました!?」
駆け寄って顔を上げてもらおうと肩に手を置いて力を入れてみるけどびくともしない。力つっよ。
「あの、お顔を上げてくださいませんか」
「婚姻を結んだのがロウではなくてすまない」
「えっ?」
そのままライン様が動かなくなった。