キモデブ王太子の逆襲〜婚約破棄から始まる俺の伝説〜
俺の名はキモデブ。ちょっぴり太ったイケメンの王太子様だ。俺は今から有力貴族も参加している学園の卒業パーティーで、婚約者のリリアーナに婚約破棄を告げる。
リリアーナが悪い訳では無い、俺がモテ過ぎるのがイケないんだ。
3年前、俺は王立学園の入学式でソフィアと出会い恋に落ちた。彼女はツンデレなリリアーナと違い、俺への愛を素直に伝えてくれる素敵な女性だった。でもリリアーナの目もあって、なかなか手を出せずにいた。
だが先日、彼女の方から卒業したら自分を側室にして欲しいとの申し出があった!
俺は余りの嬉しさに、ソフィアを側室にするんだと友人達に自慢してしまい、友人達から「そんなの絶対に駄目だ! ソフィアと結婚したいなら正室にしろ!! でなきゃ友達を止めるぞ」と脅され、さらに「安心しろ、リリアーナは俺達が適当な罪を丁稚あげて婚約破棄に持っていくから心配するな」とまで言われ、俺は頷くしかなかった。みんなソフィアが大好きだからな。
なのでローア王国で最強と言われるエンブリオン公爵家の娘リリアーナに、今から婚約破棄を告げなければならないが、俺の権力は強いので心配は無い。俺を産んで亡くなった母のタクラン王妃は、ローア王国を服属させているタカール帝国の皇帝の娘だった。だから生きていた時は父親のビョウジャク王を圧倒する権勢を誇っていて、父のビョウジャク王は母のいいなりだったそうだ。俺はその母の権力の全てを引き継いでいるのだ。あと、病弱な父王に代わり摂政をしている叔父のマオトコ大公も、仲の良かったタクラン王妃の一人息子だからと、俺を実の子供のように可愛がってくれている。ただ最近、祖父のタカール皇帝が死んでしまい、俺の権力も急速に低下しているが、まあ大丈夫だろ。
「リリアーナ。今日、俺達は学園を卒業して大人の仲間入りを果たした。だから俺は親が決めたお前との婚約を破棄し、自分で決めた愛する女性と結婚する事にした」
「……で、殿下。本気なのですか?」
皆の視線が集まる中、リリアーナが怯えたように答える。
リリアーナめ、俺に捨てられそうになって焦ってるな。コイツは素直じゃないが、俺に惚れてるからな。普段は俺と目が合うと、恥ずかしくてすぐ逃げ出すツンデレさんだ。
安心しろ。俺は友人のシナリオ通り動くつもりはない。要はソフィアを王太子妃にすれば皆が納得するんだ。だから友人の計画に少しアレンジを加える。リリアーナは顔もいいし、エロい身体してるから捨てるのは勿体ない。友人の証言を利用してリリアーナを脅して、ソフィアに正室の座を譲らせる。そしてリリアーナには側室の座を与えてやれば全員ハーピーエンドになる。俺って頭いいだろ!
「もちろん本気だ。聞けばお前は、学園で俺のソフィアに嫌がらせをしていたそうではないか。王国最強のエンブリオン公爵家の娘であろうと、ソフィアに働いた罪は償って貰うぞ!!」
「そんな殿下! 濡れ衣です!!」
「濡れ衣だと!? こっちには証人もいるのだ!!」
「ではその証人に会わせて下さい!! 話しをして、私の無実を証明してご覧に入れます!!」
「いいだろう、証人を呼んで……」
ん、なんだこのリリアーナの瞳の輝きは!? 凄く嫌な予感がする!! 俺の野生の感が告げている! これは罠だ!! 証人を呼べば俺は破滅する!!
俺は優秀な腹違いの兄ウイリアムを差し置いて長年王太子をやって来た。そのせいでよく暗殺者に襲われたり、裏切りにあったりした。だから俺は危機察知能力に長けている。その磨き上げられた感が、友人が俺を裏切ってリリアーナに密告したと告げている。つまりリリアーナは婚約破棄されると事前に知っていたんだ!
「……いやそれには及ばん。よく考えれば、…違うな。俺は始めからリリアーナがソフィアを虐めたなどと信じていないぞ。だけどリリアーナを告発する者が出た以上、リリアーナを無条件に信用するのは未来の王として問題だと考えたんだ。だからカマをかけてリリアーナを試してみただけだ、驚かせてすまなかったな愛するリリアーナ」
「はいっ? 愛するリリアーナ…?」
リリアーナが目を丸くして驚いている。
まあ、仕方ない。俺はリリアーナが素直に俺を好きと言うのを待っていた。俺はソフィアとデートする一方でリリアーナとの恋のかけは引きを楽しんでいたのだ。
「そうだ、だから俺がリリアーナと婚約破棄する事は絶対に無い!」
「絶対に……」
恐らく友人たちはソフィアを俺から奪うためにリリアーナに密告したんだろう。俺をエンブリオン公爵と敵対させ王太子の座から引きずりおろす。罪状は俺が婚約破棄のために嘘の証言をさせた言う所だろう。上手い手だ。そうすればソフィアを自分のものに出来るかも知れないからな。だが、そうはさせん! 貴様らは俺を見余った。リリアーナもソフィアも王国で一、二位を争う美少女。二人とも俺のものだ!!
「待ってください! ソフィアを愛しているのですよね!? 王太子妃にしたいのですよね!」
リリアーナのこの取り乱し用、やはり計画が狂ったからだな。だがリリアーナの目的は何だ? 愛する俺と敵対などしたくない筈だ。
「リリアーナしっかりしろ。男爵令嬢のソフィアが王太子妃に成れる訳が無いだろ? ソフィアは側室。王太子妃の座はリリアーナ、お前のものだ」
「……なんで…どこで選択肢を間違えたの…?」
……
リリアーナが下を向き、うち震えている。
間違えた?
ここは、愛する俺に捨てられず、喜ぶところだろ?
そうかリリアーナの目的が分かったぞ! ソフィアを俺の側室にしたく無いんだな! 俺を独り占めにしたいんだ!! きっとリリアーナの計画では、証人のあいつ等を呼んで土壇場で裏切り、嘘の告発をさせた真犯人にソフィアを仕立てる気だったんだ。それで国外追放にして、俺を独占する計画だ! リリアーナなんて恐ろしい子!!
「こんなのストーリーと違う、修正しなきゃ!!」
顔を上げたリリアーナは凄い顔をしていた。
「っ! おっ、おい。ストーリーってなんだ? しっかりしろリリアーナ、計画が狂って動転してるかもしれんが。俺はちゃんとお前も愛しているからな、大丈夫だぞ」
「ふざけないで! いえ、殿下。私は殿下がソフィアさんを側室にするなんて事は認められません。 ですから殿下がソフィアさんを側室にしたいのであれば、どうか今この場で私との婚約を破棄して下さい!!」
うおおおい!
リリアーナの奴、一か八かの勝負に出やがった!!
だが俺には王族法がついてるんだ!
「リリアーナ何を言ってるんだ、側室を持つのは王族の義務だぞ? お后教育で何を学んだんだ?」
「殿下そのような嘘は通じません。 国王陛下だって妻は王妃様ただお一人です。私かソフィアさんかどちらか一人を選んで下さい!」
「ちょっと待て、嘘じゃないぞ! ちゃんと法典にも王族は側室を持つことを推奨すると載っているからな! それに父上が側室を持たないのはネトル王妃に現を抜かし王族の義務を放棄してるからだ。そもそも俺の母のタクラン王妃が俺を産み亡くなるまではネトル王妃だって側室だったじゃないか!」
「えっ!!」
リリアーナが凄く驚いている。
え? なにこいつ? まさか俺を好きすぎて、俺以外に興味なかったのか? ふっ、なんて可愛いやつだ。
「ならば殿下も王族の義務など忘れて、ソフィアさんを捨て私一人だけを愛して下さい。それが無理だと言うなら婚約破棄して下さい!!」
やっばりな! そんなに俺を独占したいのかよ!
これじゃあ、もう夜は寝かせねぇからな!
「分かった。リリアーナがそこまで言うなら断腸の思いで婚約を破棄しよう」
「殿下ありがとうございます!!」
まあ、ソフィアはほとぼりが冷めたら側室にすればいいだけだからな。それまでリリアーナをたっぷり可愛がってやる!
「皆よく聞け。俺はソフィアとの婚約の約束を破棄し、リリアーナを唯一の妻にする。これでいいなリリアーナ♡」
「っ!! な、な、なんでよ〜!!」
「うわっ」
激昂したリリアーナが俺の胸ぐらを掴み揺さぶって来る。
「おい何をする、やめろってリリアーナ! いくら嬉しいからって皆が見てる前で王太子の胸ぐらを掴むんじゃない。これじゃあソフィアへの虐めが本当だったと疑われても仕方ないぞ」
俺の言葉にリリアーナはパッと手を放した。
まさか、本当に虐めてたのか?
もし本当にソフィアを虐めてたとしたら、俺の金色バッドでヒィヒィ言わせてやるからな。
俺はリリアーナに近づき耳元でそっと囁く。
「次に会うのはベッドの上だ。いや違った結婚式だったな。楽しみにしてるぞ、ヒッヒッヒ」
「ひぃっ……」
喜びで身をすくめたリリアーナを放置し、俺はカッコよく立ち去ろうと一歩を踏み出した時。後ろから誰かに呼び止められた。
「おい、待てこのクソデブ野郎!!」
振り返るとリリアーナの兄レオとネトル王妃が生んだ異母兄のウイリアムとが立っていた。
「義兄上、クソデブとはどういう了見でしょう。気でも狂われましたかな?」
「誰が義兄上だ! お前は我が妹リリアーナに婚約破棄を言い渡した、もはや義兄ではない!!」
何を言い出すんだコイツは、ホントに頭がおかしくなったのか?
「さっきから何を言ってるんだお前は? 俺は王太子だぞ、口の聞き方も忘れたか?」
「黙れ無能! 運だけで生き延びて来たお前の運も今日で終わりだ! ウイリアム殿下もお聞きなられましたよね!」
「ああ、確かに聞いた。弟がリリアーナに婚約破棄を告げ、イジメの罪を着せたのをな」
不味い!!
ウイリアムはこんな無茶を言う奴じゃない!!
もしやウイリアムの派閥の強さが俺の派閥を超えたのか!?
半年前、祖父のタカール帝国皇帝タカール8世が崩御した後、伯父達が血みどろの家督争いを始めていた。ローア王国ではこれを好機と捕らえ、帝国との従属関係を解消しようと、独立の機運が高まっていた。その影響で俺の派閥が急激に縮小していたのは知っていたがーまさか、もうウイリアムの派閥に負けてたなんて!
俺の感が告げている、これはクーデターだ。
すぐに逃げるべきだ。だがどうする、どうやって逃げる!?
「頭は大丈夫か? それは告発者がいたからリリアーナを試しただけだと言っただろう」
「告発者とは俺たちの事かな、無能な王太子様よぉ」
「お前たち!!」
ヤハリ裏切ってたか、ローア王国最強のサムライ騎士団の団長ローニンの息子のニート。それに国内最大のエド金山を有するガイウス辺境伯家の嫡男ウォレス。
「みんな聞いてくれ! 俺達はここにいるキモデブ王太子に嘘の告白を強要しれた!!」
「そうだ、俺たちはリリアーナ様がソフィア嬢を虐めていると言えと言われた。でないと家を潰すとまで脅されたんだ!」
おのれニートにウォレス! 只では済まさんぞ!
「ふん、俺がお前達に命じた証拠など無いだろ。だが俺にはお前達が書いた告発状の証拠があるのを忘れたか!!」
そう。俺はこいつ等が信用出来なかったから、一応告発状を書かせて置いたのだ。
「あの告発状なら既に回収に向かわせた。聞いた話だと、お前は大切なものは本棚の裏の隠し部屋に隠しているそうだな」
「なぜそれを!」
「俺だキモデブ」
「ウラギール!! お前も裏切ったのか!?」
ウラギールは一つ年上の俺の幼馴染の親友だ! しかもコイツは俺のコネで去年第二王子騎士団の団長に叙任してやったばかりだ! いくら何でも酷くないか!
「キモデブ、お前の負けだ。罪を認めウイリアム様に王太子の座を譲れ。俺はお前を守る為にウイリアム様の側に付いたんだ。ここで罪を認めればお前を男爵にしてくれるってよ」
「ふざけるな!! 何が男爵だ!! どいつもこいつも俺を裏切りやがって!!」
駄目だ終わった! よりにもよって第二王子騎士団が寝返るなんて!
俺の支配下に2つの騎士団がある。王太子騎士団と第二王子騎士団だ。各騎士団の定員は千人で双方合わせて2000だ。
そして王太子騎士団は王太子に忠誠を尽くす義務がある。だから王太子を降ろされれば俺への忠誠は消え失せる。それに対して第二王子騎士団は第2王子の俺が個人的に面接し、採用した騎士の集団で、基本的に生涯俺一人だけに忠誠を誓う事が義務付けられている。たがら俺だけの騎士、つまり俺の懐刀だった! 恐らくウラギールはウイリアムと教会の力を借りて、俺と第二王子騎士団との雇用契約自体を無効にする気だ!
「観念しろ! お前の悪行もここまでだ!」
「はあ!? 俺が何をしたって言うんだウォレス!」
「いっぱいあるだろ! 例えば戦術試験で俺と対戦した時、歩兵戦なのに平地は馬の方が強いんだぞって、兵種変更しただろ!! ルール違反なのにバカ教師が黙認したせいで、俺は筆記試験で満点だったのに、重要な実地試験で、筆記試験が赤点だったお前に完敗したからって最下位の成績にされたんだぞ!!」
「戦場にルールなんてあるか! 勝てば官軍だ!」
「ならこのパーティーでの戦場は俺の勝ちだ!」
ぐっ。
もう何を言っても無駄だ。こいつら押し切る気だ。だが起死回生の一手は既に考えてある。必ず隙をついて実行してやる!
「ソフィアさんこっちに来て、貴方も殿下に私を告発するよう強要されたんでしょ?」
事が上手く運べば、側室の公表をしようと俺の近くで待機させておいたソフィアの手をリリアーナが取った。
おい、リリアーナ。お前は俺に惚れてるんだろ? ソフィアを排除したいんじゃ無かったのか?
「わ、わたしは……」
まさか……ソフィア、お前は裏切らないよな!
「リリアーナ様ごめんなさい、私は強要なんてされてません!」
ソフィアよく言った。俺は信じていたぞ!!
「貴方の立場は分かってるわ。幼い弟たちのために遠い親戚の男爵家の幼女になって、養父と養母に命令されて殿下に近づいたんでしょ。私たちに話した事を、殿下に求婚した本当の理由を今ここで話して頂戴」
「わ……わたし…嫌だって言ったのに、殿下に無理矢理キスされて、胸まで触られたんです!」
いや、そりゃ触るだろ。
恋人同士のいやよ、いやよは好きにしてよって事だからな。みんなも分かってる筈だ。
「わたしもう傷物になっちゃたから、殿下と結婚するしかないって思って……」
「大丈夫、貴方はキズ物なんかじゃないわ」
リリアーナが泣き始めたソフィアを優しく抱きしめた。
ん……なんだこの流れは? これじゃあ、まるで俺が悪者じゃないか。
皆の俺を見る視線が痛い。
ここはフォローしとくか。
「そうだぞソフィア、俺は王族だ。王族に触られる事は名誉な事だ。傷物なんて言ったら駄目だぞ。それにお前から近づいて来たんだから、何されても文句は言えないだろ。それともお前は美人局だったのか?」
リリアーナがキッと俺を睨んだ。
「やっぱりあなたはキモデブね! ソフィアちゃんは傷物なんかじゃないし、美人局でもないわ!」
「そうだぞソフィア。君は傷物なんかじゃ無い、俺はソフィアの事が好きだ、付き合ってくれ!」
「おいニート、なに抜け駆けしてんだ! 就職先も決まってないのにソフィアを口説くんじゃねえ! 俺もお前が好きなんだ付き合ってくれ!」
「ニート君にウォレス君…ありがとう」
こいつら人の女を、なに目の前で口説いてんだ!! それになんでソフィアも嬉しそうなんだよ!
「くそっ、お前らこれが何か忘れたか! お前らが書いた告発状だ!」
「なぜここに!」「くそっ部屋に隠してなかったのか、それを寄越せ!」
「わっはっは、バカ共めが。嫌な予感がしたから持って来て正解だったな!」
ニートとウォレスが俺から告発状を奪おうと駆け寄るが、俺は告発状をクシャクシャに丸めて観客の方に放り投げてやった。
「これが欲しければ取ってこ〜い!」
二人は夢中で人混みを掻き分け告発状を取りに行った。ー今がチャンスだ!ー
「義兄上〜助けて下さいよぉ! 俺はリリアーナと別れたくないんですよぉ、言いがかかりは止めて下さいよぉ〜」
「黙れ! お前が大人しくリリアーナを断罪していれば、俺たちが強硬手段に出る事もなかったんだ!」
俺は跪き許しを請うようにレオに抱きつく。
「そんな酷いですよぉ、義兄上ぇ〜」
「おい、止めろ! お前の顔の脂が俺の服に染みるだろうが!」
誰が油ギッシュだぁゴラァ!!
俺は腰の短刀に手を伸ばした。
この時、レオはキモデブの頭を引き剥がすのに必死で、キモデブが腰の短刀を抜くのが見えて無かった。
またウイリアムもキモデブの身体が死角となり短刀が見えない位置にあった上、キモデブの情けない態度に、「見苦しい」と目を離した一瞬だった。
グサッ!
「お前が死ねば全てが解決するんだ! この叛逆者めえ!!」
「ぐぅはっ」「なっ、ウイリアム様!!」
「往生性や〜!!」
俺は短刀をさらに深く刺しウイリアムの心臓を貫いた。
「いゃ〜」
リリアーナが絶叫するが、今はどうでもいい。
ここにいる第二王子騎士団の護衛はせいぜい10人程度、このクーデターを鎮めるには数が全然足らん!
「ウラギール! 王太子騎士団と第二王子騎士団の全員を緊急召集しろ! クーデターに加担した者たちを全員捕らえるんだ!!
「え? いや、だけど……」
くっ、コイツこの後に及んで俺に付かない気か! 後でお前も捕らえてやる!
「趨勢は決した。いちゃもんを付けウイリアムとエンブリオン家に大義など無い! ここにいる貴族たちが証人だ! ウイリアムはクーデーターを起こし俺に処刑された。王位を継げるのはもう俺だけだ!」
「わかった。おい聞いた通りだ王太子騎士団と第二騎士団を至急集めろ!」
ウラギールは副団長のフトッチョ(名前)に命じた。
よし!
危機は乗り切った、これで一安心だ。
「女神アクア様! どうかもう一度だけ私たちを助けて! ウイリアムを生き返らせて、お願い…」
リリアーナが横たわるウイリアムに抱きつき泣き叫んでいる。
おい、どういう事だ!
お前の愛する男は俺だろ! そいつじゃない!
「アクア様お願いします、うううぅ…」
泣いても無駄だ、死人は蘇らん!
「……は? なんだ……これは!?」
リリアーナとウイリアムを中心に金色の光が輝きだし、強い光を放ち始めた。
「…や…やめろ」
俺の脳裏に幼い頃に聞いた童話が蘇って来た。
その内容は惑星アクアの女神アクアは世話好きで、しょっちゅう人間界に干渉し、銀河を統べる上位神ゼーマ様によく叱られていると言う話だ。それほどアクア様は慈悲深いと言う話しなのだが=くそっ、何てことしやがる! これは余計なお節介だぞ駄女神!!
「リリアーナ、もう泣くな。俺は無事だ」
「ウイリアム生き返ったのね!」
リリアーナがウイリアムに再び抱きついた。
俺は何を見せられてるんだ!?
お前は俺の女だろ!
これは寝盗られか! 寝盗られなのか!
「おお、神の奇跡だ!」
「これは数百年に一度しか起こらないと言う神の奇跡か!!」
「まさか私が、あの伝説の金色の光を見られとは。おお神よ感謝します!」
「リリアーナ様は神の愛し子だ、聖女様だったんだ!!」
殺れる!
今ならもう一度、ウイリアムを殺れる!
皆の注目がウイリアムとリリアーナに集まっている中、俺を見てる者などいない!
神など知った事か! もう一度殺ってやる!
俺が一歩を踏み出したその時、レオと目がかち合った。
くそっ、レオは剣術の達人。まともに勝負したら絶対に負ける!
「ウラギール! 今すぐキモデブを捕らえろ! エンブリオン公爵家との盟約を破り、キモデブにつこうとした貴様の罪はそれで許してやる!」
「っ……」
くそっ、一歩出遅れた!
「騙されるなウラギール! 直ちにウイリアムの首を刎ねろ! 俺が邪神アクアの力は封じる! 見ていろ!!」
俺は天に向かって叫ぶ。
「邪神アクア! お前の力は俺が封じた、封じられていないと言うのなら、あの雷帝クソデーブを殺した時のように俺を神力で殺してみろよ!! ただし、他の人間に殺させたらお前の負けだからな!」
「何をしているウラギール! キモデブの言葉に惑わされるな! アクア様は忙しいんだ、キモデブに構ってる暇などない。キモデブの言葉で言えば趨勢は決しただ!! 早くしろ!!」
「っ、第2王子騎士団に命ず! キモデブ王太子を捕らえろ!」
おのれウラギール!!!
「お断りします!! 我々はこれ以上、ウラギール騎士団長の命令には従えません!!」
おおっ! フトッチョ君、俺は君を信じてたぞ!!
「我々はキモデブ王太子に忠誠を誓う者、あなたがキモデブ王太子様の為になると言うから従っただけ
です。我々は王太子様の命の保証が無い限り、この場で戦って死ぬ覚悟です!!」
フトッチョ君よく言った!
フトッチョ君以下10名が剣を抜き、ウイリアムにじり寄る。
よし殺れ、殺ってしまえ!!
「ふざけるなフトッチョ、俺の命令に従えよ!」
「止めるんだウラギール。君の名は?」
ウラギールが斬りかかろうとするのを、ウイリアムが片手で静止しフトッチョに訊ねた。
「第2王子騎士団の副団長フトッチョです」
「第1王子の俺が女神アクアの名にかけて弟のキモデブの命は保証しよう。ここに居る貴族全員が証人だ」
まずい。
「騙されるなフトッチョ君、嘘に決まっているだろ!」
「ウイリアム様、本当によろしいのですか? キモデブ王太子はウイリアム様を殺そうしたんですよ」
おい、話を聞けよ!!
「君は死なすに惜しい人材だ。それに神の奇跡を受けた日に、これ以上は血は見たく無いんでね」
はあ? キモい顔でなに爽やかな事言ってんだよ、この野郎!
「分かりました剣を納め、降伏します。ただし事故に見せかけ暗殺したり、欠損や毒による後遺症などもしないで下さい」
「無礼者! ウイリアム様はそのような真似はしない!」
「レオ殿、貴方が一番信用出来ない。俺は約束して無いからとか言いそうです」
「貴様、エンブリオン公爵家を敵に回すつもりか!?」
「レオ落ち着け。フトッチョ殿、約束する。誰にも弟には手出しをさせない」
「殿下、感謝します。我々第二王子騎士団は降伏します」
おい、ふざけるな!
「勝手に降伏すんじゃない!」
レオが部下に命じフトッチョたちを縄で縛り始めた。
クソクソクソクソクソクソクソ。
マズイマズイ!
逆転の一手が必ずある筈だぁぁぁ!! どうすればいい、どうすればいい!?
「弟よ、最後に一仕事して貰う」
「なっ、なにをさせる気だ……」
「俺が教えてやる。ここでもう一度妹のリリアーナに婚約破棄をするんだ。でないと俺がお前を殺す」
ごくっ。
コイツの目は本気だ!
「分かった……。リリアーナこっちに来い」
「駄目だ妹に近づくんじゃない」
クソクソクソ!
「リリアーナ、俺は…お前との……」
なぜだ、何故俺がこんな屈辱を受けねばならん!
「婚約を…」
破棄などしない! 絶対にだ!
「破棄……ぐっ」
ここで死んでもお前を手放してなどやらん!
「…する」
ちきしょぉー(泣)
「みんな聞いたな! キモデブは一方的にリリアーナとの婚約を破棄し、友人たちに嘘の告発を強要した、そうだな?」
「はい! 我々は王太子に嘘の告発を強要されました!!」
くそっ、この世の中腐ってやがる!
…うっ、なんか頭がクラクラしてきた…ぞ
あれ……だんだん気が遠く…
ドサッ。
「はあ、情ねぇな、キモデブ。ショックでぶっ倒れるんじゃねえよ」
神星暦1017年、6月3日。
この日、王立学園で起きたキモデブ王太子による婚約破棄事件。後に王立学園の変と呼ばれる事件には続きがある。この直後に、ローア王国で大粛清が行われた。
翌日の4日。
国王のビョウジャク王はキモデブ王太子を王太子の座から下ろし、ウイリアム王子を王太子に任命する。
5日 王太子は摂政の大公マオトコが王宮に参内した所を捕らえた。罪状は亡きタクラン王妃との姦通罪であった。その直後に大公の派閥と一族も捕らえられた。
6日 国王はマオトコ大公の摂政の任を解任し、ウイリアム王太子を摂政王太子に任じた。摂政王太子はキモデブ王子を大公マオトコの子供だったとし、王子の位を剥奪した。
評議会は摂政王太子に、大公マオトコとその一族を国家反逆罪で処刑し、領地を没収する事を提案。王太子はこれを承認し、刑は即日実行された。なおキモデブも大公マオトコの子供とされたので処刑者リストに上がったが、摂政王太子の一言で死刑を免ぜられた。だが評議会はキモデブが摂政王太子を刺した罪を強く主張し、議会の要望でキモデブは鉱山での懲役100万年の刑が言い渡された。
7日 摂政王太子はタカール帝国に独立を宣言する。
この時に書かれたローア王国史では王都の民は、無能と評判のキモデブから、人気の高い優秀なイケメンのウイリアム王子に王太子の座が移った事に歓喜し、新時代の到来を拍手喝采で喜んだと書かれていた。
*******
3ヶ月後。
ウイリアム王太子は10万のローア王国軍を率いて、タカール帝国の討伐軍20万を完膚なきまでに破り、帝国との和平協定を結ぶことに成功した。ウイリアム王子は凱旋し、その祝賀パーティーで聖女リリアーナとの婚約が国王より発表された。
*******
ウイリアムとリリアーナの婚約発表の翌日。
ガイウス辺境伯領にある、世界一の金の産出量を誇るエド金山。キモデブはこの金山の鉱山奴隷として働いていた。
鉱山奴隷の牢屋。
俺は夢を見た。
黒髪黒目のリリアーナに告白して振らる夢だ。
あれはきっと前世の夢だな。
あいつ、前世でも俺を苔にしたのか? まあそれはどうでもいいか、だけどこれで分かった。リリアーナは俺の運命の女だったんだ。
きっとあいつはもうすぐ俺の嫁になる。
そう俺の感が言っている。
そうなったらウイリアムの目の前で服をひん剥いて犯してやろう。
女神の加護に頼っても無駄だぞ。
駄女神の奴はあと百年は奇跡を使えないからな!
「ヒーヒッヒッヒッ」
「ザマァみろ、覚悟しておけよ、お前ら! 復讐の日はもうすぐだからな!」
それはそうと愚民どもめ! この新聞はなんだ!
これじゃあ俺が悪者じゃないか!
神星暦1017年、6月3日。
キモデブ王太子がソフィア男爵令嬢に片思いし、婚約者の聖女リリアーナ様と婚約破棄するため、嘘の罪で断罪しようとして失敗した。嘘の告白を強要された心ある者たちが、事前に聖女様に相談した事で事なきを得た。怒ったキモデブ王太子は聖女様を刺殺しようとしたが、ウイリアム王子が身を体して庇った。だがキモデブ王太子の刃がウイリアム王子の心臓を貫いてしまう。しかし聖女リリアーナ様の祈りが女神アクア様に届きウイリアム王子は息を吹き返した。まさに………
「愚かな愚民どもめ!
なぜ真の王太子が俺だと分からない!!
俺は決めたぞ! 俺の価値が分からない愚民は、皆殺しにしてやる!」
「そうだ、なんとかって神様も、善人が一人もいなかったら街を消滅させると言ってホントに消滅させただろ。あれが国になったて言うだけの話だ!」
「かーかっかっ、貴様達が神罰を受ける日は近いぞ、近い近い、もう直ぐ、もう直ぐ、もう直ぐだ、もう直ぐだからなぁぁあ!!!」
「うっひょひょ、ワ~ハッハッハ、ヒーヒッヒッ」
「ご覧の通りです、気が狂ってしまい使いものになりませんが宜しいのですか?」
「構わん、元からこんなもんだった、それに神輿は神輿だ。俺達の計画に支障はない」
「だ、誰だ!?」
「俺だキモデブ」
ウラギール!!
こいつは裏切り者だ、まさかレオの命令で俺を殺しに来たのか!!
「俺の命を取ればウイリアムの名声は地に落ちるぞ!!」
「はあ? なに言ってんだ? しっかりしろ、俺はいつだってお前の味方だろ」
こいつが味方?
誰が一度裏切った奴を信用なんてするか!
「…レオの命で来たんじゃないのか?」
「は? だれがあんな奴の言う事を聞くか! あいつは俺との約束を破って疾風の騎士団の団長にしてくれなかったどころか、第二王子騎士団の連中と一緒に解雇しやがったんだぜ!!」
それは自業自得だ。
「じゃあ何のようだ?」
「お前が王になる時が来た。お前の実父は大公マオトコらしいじゃないか。つまりお前にはまだ王位継承権が残ってるって事だ。実父や兄弟の仇も討ちたいだろ?」
なるほど! 俺にはまだマオトコ大公の王位請求権があった! 大公の息子と分かって王子じゃ無くなり、王太子への復帰の道は閉ざされた。だが王への道は閉ざされていないって事だ!
大公の王位継承権は剥奪された、だが王位請求権は王族が生まれながらに持つ権利だ、何人たりとも奪えない。
王位継承権は現政府(国王)が認めた、継承順位の順番で平和的に王位を継承出来る権利だ。対して王位請求権は、お前より俺の方が王に相応しいから、その王位をよこせと実力行使する時に使う権利だ。もちろん遠い親戚がこれをやると非難轟々だし、大した理由も無しに戦争を吹っ掛けるのもマズイ。たが俺の実父のマオトコ大公はビョウジャク王に殺されてるし、その子供の俺の王位継承権も剥奪されている。俺がビョウジャク王に戦いを仕掛ける理由としては十分だ。
それに歴史は勝者が作るもの。俺が勝てば、俺が王国史を作る事になる。例えばそうだな…。
祖父のソフ王は次男のマオトコ大公に王位を譲ろうとしたが、長男のビョウジャク王に毒殺され遺言まで書き換えられてしまう。さらにビョウジャク王はマオトコ大公の許婚のタクラン王妃に横恋慕し、マオトコ大公とタクラン王妃の結婚式であろう事かタクラン王妃を襲い、皆が見ている前で花嫁の純潔を奪ったあげく、「よかったぞ、責任を取ってやろう」と言って自分の王妃にした。
うん、うん、いい感にビョウジャク王が凄い暴君になったな。あとは託卵をどうするかだ。
その後、マオトコ大公は兄の目を盗みタクラン王妃とついに結ばれ、2人は最愛の子供キモデブを授かるのだった。
うん、いい感じに俺の正統性が出てるじゃないか。これで行こう!
「確かに、俺には現国王と戦う理由があるな。たが今の俺は奴隷だぞ、ここからどうやって抜け出すんだ?」
「ここの鉱山を任されてる奴隷長のゴンザレスが協力してくれる事になってる。元第二王子騎士団を解雇になった連中がここに集っても問題ない」
「おおっ、ウラギールにしては手際がいいじゃないか! よし第二王子騎士団を招集しろ! 目にもの見せてやる!!」
「その心意気だ! 既に第二王子騎士団には声をかけ近くに集まってるぜ、総勢100人だ。これでガイウス辺境伯家の領都を落とせばもっと人が集まるってもんよ!」
「はあ? 騎士団は千人いただろうが、他はどうしたよ?」
「おいおい、まともな連中が王国に逆らうと思うか? 田舎で農業でもしてるだろ、集まった連中は真の忠臣だけだ問題ないって!」
いや大問題だろ! ここの辺境伯ガイウス家の軍勢は1万。領都には3000は待機してる筈だ!
いや、待てよ。ガイウス辺境伯って俺を裏切ったウォレスの親父だよな。確かあいつ、親父は高い税率で評判悪いし、無能っだって言ってたな。これは、なんとかなるかも知れん! 無能なんかに俺が負ける筈がない!
「よしやってやる!」
「さすがキモデブ、お前なら乗って来ると思ったぜ。まずはその汚い身なりと髭をそらないとだな。おっ、よく見たらお前すげぇ痩せたんじゃね?」
「見れば分かるだろ! この腕の筋肉を! 毎日朝から晩までこき使われてたんだぞ! 来るのがおせぇんだよお前は!」
神星1017年9月20日。
ガイウス辺境伯領の領都から約20キロ西にあるエド金山、この地に元第二王子騎士団の108名が集結した。
「孫にも衣装だな。金ピカの甲冑がよく似合ってるぞキモデブ」
「うるせぇよ」
「しかしお前、実はイケメンだったんだな。ウイリアム王子にも負けてねぇわ」
「はあ? 俺は元からぽっちゃりイケメンだっただろうが」
「ウラギール様。ここに長居されては奴隷たちの仕事に差し障りが出ます。早く出ていってください」
「ゴンザレス、グズグズ言うな。キモデブの鼓舞の演説が終われば直ぐに出ていってやる」
奴隷長のゴンザレス。そういやこいつは、俺がここに来た初日に、俺にムチをうった大罪人だったな! こいつを困らせてやる!
「奴隷の諸君も聞いてほしい! 俺は王族だ! 王位請求権のある王族だ! だが言われなき罪で奴隷にされ、この三月の間、ここで諸君とともに働き血の汗を流した! 俺はここに集まった第二王子騎士団と共に暴君を倒し王になる! まず俺たちはこれから、この地を治めるガイウス辺境伯の領都を奇襲する! あの悪名高いガイウス辺境伯を殺すのだ! 諸君の血と汗の結晶である金を横領し、私腹を肥やす極悪人の辺境伯をだ!! 我が軍に参加すれば誰であろうと以前の罪を許し、今の奴隷の身分から解放してやる!! 俺の家臣になれ!! こんな所で働くだけの人生で終わりたくはないだろ? これが最後のチャンスだ、俺について来い!!」
どうだゴンザレス。仕返しに、ここにいる鉱山奴隷二千人を連れていってやる!
「なっなっなっ、お待ち下さい! ここに居るのは終身刑を言い渡された極悪人の犯罪者どもですぞ!」
「黙れゴンザレス! 俺に逆らえば殺すぞ!」
俺は腰の剣を抜き脅す。
「ウラギール殿! これでは話が違う、奴隷を連れて行かれては辺境伯様に叱られます!! ぎゃ」
ブシュ。
ゴンザレスの首が宙を舞う。
剣を抜いている俺に背後を見せるとは愚かな奴だ。
「おいキモデブ!!」
「こいつは辺境伯に叱られると言った、つまり俺たちの敵だ。さあ我が軍に加わりたいものはついて来い! 貴様らに自由と女、地位もくれてやる!!」
「「「うおおおおおお!!」」」
恐怖の対象であるゴ奴隷長ンザレスの首が飛んだ事で囚人たちを繋ぎ留める心の楔は解き放たれた。
****
キモデブのいるエド金山から、5キロ先の森にキモデブの友人だったガイウス辺境伯の息子ウォレスが兵士300人を引き連れて待ち構えていた。目的はキモデブを殺す事。
「ウォレス様、本当に辺境伯様に黙ってやるおつもりですか?」
ウォレスについて来た領都の守備隊長のアイザックは不安だった。
いくら少人数を殺すと言っても相手は元王太子に騎士だ。一応、辺境伯にはコッソリ報告しておいた。だが辺境伯は少し考えたあと、ニヤリと笑い。「黙って從ってやれ。どっちに転んでもわしに損は無い。ああっ、わしは何も聞いて無いからな」と言いやがった。つまり何か有れば自分は切り捨てられるのだ。
「心配するなアイザック。キモデブと第二王子騎士団は反乱分子だ。反乱を起こさせ処分すれば、俺を中央に呼んで官僚にすると摂政王太子補佐のレオ様が約束してくれた。俺が中央に帰れれば、今度こそソフィアは俺の女だ、わっはっはっ!」
「そう……ですか? ですが、辺境伯様の兵を勝手に動かせば廃嫡もありうるかと……」
「黙れ! 長男より優れた弟など存在せん! 父上は弟ばかり可愛がっているが所詮は5歳のガキだ。俺が優秀だと言う事を見せつけてやればいいだけの事!」
その時、物見が慌てた様子で帰って来た。
「ウォレス様、大変ですキモデブ軍がやって来ました!」
「よし、俺の計画通りだ! ウラギールの奴やってくれたな。これで俺は王都に帰れるぞ!」
「お待ちくださいウォレス様、部下の様子が変です。おい、何かあったのか?」
「それが! キモデブ軍は100人ではありません、大軍です! その数およそ1000!!」
「ば、バカな! そんな筈はない。第二王子騎士団の全員が集まるなどありえん!」
「違います、奴らのほとんどが鉱山奴隷です!!」
「ウォレス様これは予定外です! 一旦領都に退却し、辺境伯様に報告して増援を頼みましょう!」
守備隊長アイザックはとんでもない事になったと思った。鉱山に収容されている奴隷達は、王国中から集められた労働に適した重犯罪者ばかりだ。これが王族と言う大義名分を得て蜂起したのであれば只事ではすまない。強制労働で溜まった鬱憤が士気の高さに変われば、精鋭の兵士をも圧倒するかも知れない。初戦で負けて、敵に勢いをつけさせてはならないのだ。
「ならん! 奴らは所詮は烏合の衆だ。こっちは訓練された兵士なんだぞ。このまま予定通り奇襲をかければ殺れる!」
「ウォレス様、鉱山の奴隷達には荒くれ者の傭兵や元兵士たちが多数います、侮ってはいけません!」
「煩い黙れ! こんな、こんな事、親父になんて報告すればいいんだよ! ここで絶対にキモデブを殺す!! いいな! なんとしてでも殺すんだ!!」
ウォレスは焦っていた。キモデブを反乱者に仕立ててさくっと殺すつもりが、本当に反乱を起こしやがったのだ。ホントに軽い気持ちだった。キモデブを殺すついでに、キモデブに忠誠を尽くす反乱分子の元騎士たちも始末すれば、手柄も増えて一石二鳥じゃん。ぐらいの軽いノリで立てた計画。それが、その火遊びが大きな火柱となり自分に襲いかかって来たのだ。
ーーどこで俺は選択を間違えたんだ! いや間違えてなどいない、ここでキモデブを殺せば計画通りだ! キモデブこどきに俺とソフィアの未来を邪魔させはしない!!
この時、守備隊長のアイザックもまた動揺していた。彼は知っていたのだ、鉱山には2000名を超える奴隷たちが働いていた事を。だが無意識のうちに、いつもウォレスが無能と呼び、辺境伯も無能と呼ぶキモデブが、全ての奴隷を従えられる筈がないと思った。全ての奴隷が敵になり襲って来る筈がないと思いたかった。その気持ちがアイザックの評価を上方修正させず、敵の数に疑問を持たせなかった。
………
時は少し遡る。
「う~ん」
「キモデブどうかしたか?」
「ウラギールお前ヘマしただろ?」
「はあ? 何言ってんだ?」
俺は2キロ先の森を指差した。
「あそこの森にな、兵士が300人ほど隠れているんだよな」
「なっなっ!? お、お前なに言ってんの!! 正気か!?」
「正気に決まってんだろ。俺には暗殺者に鍛えられた絶対感があるんだ。だから俺を殺そうとする奴がいればなんとなく分かる。その数と居場所もな」
「はあ! なんだよそれ! 俺はそんなの聞いてねえぞ!!」
コイツなに焦ってんだ?
「俺の感が人には絶対に教えるなと言っていたからな。おい、元奴隷のリーダーは誰だ?」
「オラだ」
「よしスパルタクス、兵士を半分連れてあの森の後方に回って、敵兵を森から追い出すんだ」
「分かっただ。でも、おらスパルタクスじゃねえぞ、ノウキンだべ」
「そうか、すまなかったな。じゃあノウキン頼めるか?」
「分かったべ」
「ちょっと待て! 勝手に軍を動かすんじゃない!!」
はあ? さっきからコイツなに言ってんだ?
「ウラギール、お前なんか勘違いしてないか?」
「ああん!!」
「第二王子騎士団は俺の為に集まった俺の軍だぞ。それに元奴隷達は俺が口説き落として家臣にした連中だ。お前の兵は自前の数人だけだ」
「ぐっ」
「そう怒るなって、ちゃんと忠誠を尽くせば出世させてやるからさ。騎士団長にもしてやっただろ?」
「…わ、分かった。約束は守って貰うぞ!」
ウラギール。お前が俺を裏切った事を忘れてないからな。そう簡単には出世などさせん! こき使ってこき使って絶望したら考えてやるよ!!
……
「ウォレス様、キモデブ軍が来ましたぞ」
「いいか、焦るなよ。半分が通過したら横っ腹を襲うんだ」
「はい、…あっ、なっ、ウォレス様! キモデブ軍がこちらに向かって陣を敷き始めましたぞ! こちらの存在が気付かれております!」
「そんなバカな! くそっ、ウラギールの奴が裏切りやがったんだ! 突撃だ! 敵が完全に陣を敷く前に叩き潰すんだ!!」
「無理です! 敵は3倍以上です、ここは引くべきです!!」
「ええい、黙れ! 突撃しない奴は斬るぞ!」
うおおおお!!
その時、後方から凄まじい鬨の声が上がった。
「なっ、なっ、なんだ! なんの声だ!」
ウォレスが叫ぶと同時に、背後を襲ったキモデブ軍が無数の矢を放つ。
ビュッビュッビュッ。
「て、敵です、早く逃げましょう。ここに居ては危険です!!」
「逃げるって、どこへ逃げるんだよ!!」
「いいから、ともかく敵の声のしない方へ、ぐふっ」
守備隊長アイザックの喉元にキモデブ軍勢が放たった矢の一本が命中してしまう。
「守備隊長〜!! 守備隊長が殺られたぞ! みんな逃げろ〜!!」
「こ、コラ! 戦え、戦って死ね! この無能ども殺すぞ!! ぐはぁっ」
………
その日の夜。
辺境伯家の領都の西門。
「大変だ、門を開けてくれ!! ウォレス様と守備隊長のアイザック様が亡くなられた!」
声を聞きいた門兵隊長のユンケルは急いで数名の部下を連れて、城門の上にある櫓から顔を出した。そして下で騒いでいる10人ほどの兵士に向かって怒鳴った。
「お前達は誰だ! ウォレス様が亡くなられたなどと、嘘をつくんじゃない! 引っ捕らえるぞ!!」
「嘘じゃない! 俺達はウォレス様に従って外に出た兵士だ。ウォレス様は鉱山の奴隷たちを味方にしたキモデブに殺されたんだ! ここに敵から取り戻したウォレス様の首がある!」
ユンケルは、本当ならばこれはマズイ事になったと思った。ウォレスとアイザックが外に兵士を連れて出たのは知っていた。だが目的は知らされていなかったのだ。
「簡単には信じられん! まずはそのクビを俺のところに投げろ!」
「分かった受け取れ!」
シュッ。
布に包まれたウォレスの首が空中を舞いユンケルの手に渡る。
「こ、これは! 確かにウォレス様だ! おい、お前達はここをしっかり守っていろ、俺はウォレス様の首を持って辺境伯様の所に行ってくる!!」
「待ってくれ、追っ手が百人くらい来てるんだ、俺たちも中に入れてくれ!!」
「入れてやれ! 俺は辺境伯様に知らせてくる、後は頼んだぞ!」
ユンケルが辺境伯の館に向かってすぐに、城門が開かれ10名の兵士が入城した。
「お前たち見ない顔だな、どこの部隊の者だ?」
「オラたちはキモデブ様親衛隊だべ!!」
ノウキンは持っていたハンマーを振り上げ、質問した門兵の頭に叩き込んだ。
グシャ。
「な、何をするんだお前!! ぐぁ」
ドス。ドス。
ノウキンの部下が他の門兵を次々に刺し始める。
「やめろ! 俺は降伏する! 降伏する、ぎゃああ」
ノウキンたちに不意を突かれた門兵はあっと言う間に制圧され、城門が開かれた。その直後キモデブ軍2000が入城した。
辺境伯の領都は元は王国一のエド金山から発展した街だ。故に金山に近く、間には何も建てられていない。そのためキモデブ軍に奇襲攻撃を許してしまったのだ。
辺境伯の部屋にユンケルから話を聞いた側近が、扉を開けて駆け込んで来た。
「辺境伯様、起きて下さい、大変です! ウォレス様が亡くなられました!! 門兵隊長のユンケルがウォレス様の首を持って来ております!!」
就寝していた辺境伯は飛び起きた。
「なにぃ! どういう事だユンケルが謀反を起こしたのか!」
ユンケルが野盗と組み、門を開き領都に侵入したのであれば民家に大きな被害が出る。その他、様々な可能性が辺境伯の脳裏を駆け巡った。
「違いますキモデブです! ウォレス様が返り討ちにあったのです!!」
「バカな! キモデブ王太子の元に集まった元騎士の連中は100人程度だと聞いておるぞ! ……ウォレスめ、3倍の軍を率いて負けるとはなんて無能なんだ!」
正直、辺境伯にとってウォルスの死などどうでもいい、むしろ愛する側室との間に生まれた次男ゴッツァンを世継ぎに出来て嬉しいくらいだ。
「まあ、これでアイツがどれだけ無能か分かった。無能が世継ぎにならなくて良かったと思おう」
「無能はお前だべ」
その時、ノウキンが兵士を率いて部屋に乱入した。
「誰だ貴様は!」
「オラはお前の部下に濡れ衣を着せられて奴隷にされたノウキンだべ」
「ぎゃあああ〜」
ノウキンの斧が辺境伯の脳天をかち割った。
奴隷の中には領都に詳しい者が多かった。ノウキンもその一人だ。城門になだれ込んだキモデブ軍は辺境伯の館に容易に辿り着く事が出来た。
翌日。
告知文とともに、辺境伯の首と息子ウォレスの首が中央広場に掲げられた。
告知文にはキモデブが実父のマオトコ大公が持つ王位請求権を行使し、王国に戦いを挑んだと書かれていた。そして辺境伯とウォレスは王国側についた為、キモデブに討たれたと。さらに慈悲深いキモデブは辺境伯家の今までの功績を考慮して次男のゴッツァンに跡を継がせ傀儡政権にすると書いてあった。
民たちは思った、傀儡政権にするってぶっちゃけ過ぎたろ、さすが無能と呼ばれた王太子だけあるなと。
次に民が目にしたのは、キモデブはこれから沢山子供を作る。よって娘の一人をゴッツァンに嫁がせ、ゆくゆくはゴッツァンに政権を返すと言う内容だった。
初めの内容が酷すぎたので、民たちは少しはマシになったかなと思った。
だがそれもつかの間、次の分で民は歓喜した。
キモデブとゴッツァンの共同統治を記念して、5割の税率をこれからずっと3割にすると書いてあった。
長年、辺境伯家の高い税率に苦しんで来た民たちは確信した、キモデブは立派な方だと。
そして次の文で民は決意する。
今日、この日に辺境伯領に住む者は、実質3年間は無税とする。
実質と言うのは3年分の税金が100万ならキモデブがあらかじめ100万渡すから、それを納めろと言う事だ。更に、これからキモデブ軍は各地を転戦するから、辺境伯領が敵に占領された場合は、渡した金で敵に税金を納めても良いと書かれてあった。
民達は確信した。キモデブは聖君だと! この腐った世の中に現れた救世主に違いないと! ゆえに何が何でもこの方を王しなければならないと決意した。
キモデブは金や物に興味は無かった。彼が欲しいものは地位や名声でもなく、最高の美女だけ、あとはどうでもよかった。ゆえに世界有数の金山を保有し、王家に納めるべき税を長年ちょろまかして来た辺境伯家にあった隠し財産(王国予算の10年分)を、惜しみもなく民に分け与えられたのだ。
またキモデブは今回、自分に従って戦った兵二千人に対してお金と2週間の休暇を与えた。一人の兵士につき大金貨100枚(日本円にして一億)の大盤振る舞いだった。これはキモデブが領都攻略にあたって略奪や強姦などを固く禁じたために出した交換条件だった。
長年奴隷として働いて来たのだ、女を抱かねばヤッてられない、出来ないのならキモデブについて来た意味などない。略奪や強姦を禁じられた奴隷たちがそう思った時、キモデブは代わりに金と休暇をやるから女を買えと言った。最低でも1人につき大金貨10枚(1000万円)をやると約束したのだ。10枚でも大金なのに予定の10倍の金を貰った兵士達は歓喜した。しかもだ、キモデブを救世主と称える領都の民が自分達を見る目は温かい。犯罪者として人から蔑まれて来た人生に光が差した気がした。元奴隷の兵士達はこれからもキモデブに付いていこうと決意した瞬間だった。
*****
2週間後。
「キモデブどういう事だ!」
「どうって、これから実父のマオトコ大公の領地を平定しに行くんだよ。あそこは王家の直轄領になったが代官が悪人で安定して無いそうだからな。今だったら解雇された親父の元家臣どもがお家再興を賭けて集まってくる筈だ」
「だからって兵士を一万も出したら、辺境伯領ががら空きじゃねえか!!」
ウラギールは2週間の酒池肉林ですっかりガイウス辺境伯領が気に入っていた。つまり離れたくなかった。
「そうだ! 残ってここを守る奴がいるな! 俺が残って領主をしてやるよ!」
「代理で辺境伯領を治める総督はもう呼んである」
「はあ誰だよそれ!? お前に残ってるダチは俺しかいねぇだろうが!!」
コイツ、俺がボッチだとでも言いたいのか?
いや、そもそもコイツは俺の友達なのか?
違うな、しょっちゅう俺を裏切るし、頼み事しかしねぇコイツは友達じゃない。そもそも、友達なんていらん、嫁さえいれば十分だ。
「お久しぶりです、ウラギール殿!」
「お前はフトッチョじゃねえか、なんでお前がここにいる!!」
元部下のフトッチョの登場にウラギールは驚いてる。
「先日、キモデブ様に辺境伯領の総督として再仕官して欲しいとの手紙を受け取り、喜んで駆け付けました」
フトッチョは命令違反をしたとは言え、卒業パーティーで命をかけて俺を助けようとした忠臣だ。元第二王子騎士団の連中に聞いたらフトッチョは辺境伯領に住んでいると聞いて呼び寄せた。今回の戦いには参加しなかったが、領地を任せても俺を裏切る心配はないだろうし、地元だから上手く治められるだろ。
「ふざけるな! お前は家族が大事だからって。負け戦には参加出来ないって、俺の誘いを断っただろうが!!」
「あの時は絶対に負けると思ったのです。ですからウラギール様に絶対に決起しないようにとの手紙を託し、キモデブ様をお諌めしたのです。ですがキモデブ様は見事な戦略で勝利した上、辺境伯領の民の心を掴みました。私はこのような素晴らしい主君の頼みを二度も断る事は出来ません!!」
手紙ってなんだ? 俺は受け取ってないぞ。
「おいこらデブ! なに都合のいい事を言ってんだ、ごらぁ!」
「止めないかウラギール!! それより手紙ってなんだ」
「あっ、えっと、それはだな。そうだ、コイツの嘘なんですよ!!」
なんでこれで騙せると思うんだ?
「いや、お前は俺に嘘をつく時だけ敬語になるからな、バレバレだぞ。お前は反省して付いてこい。嫌なら特別にやった大金貨1000枚は返して貰う」
「嘘だろおい! 一度貰ったものを返せなんて横暴だぁ!」
神星暦1017年 10月8日。
辺境伯領を平定したキモデブ軍は旧マオトコ大公領に向けて出陣した。
「きゃぁ~キモデブ様よ! なんで素敵な方なのかしら」
「ホントよね! わたし側室、いえ愛人でもいいから抱かれたいわ!」
白馬にまたがり兵を率いて、領都の街なかを颯爽と進む、痩せてイケメンになってたキモデブを見た女性たちが黄色い声援を送った。
「キモデブ、お前モテモテじゃねえか!」
「くだらん。俺にはリリアーナとソフィアがいるからな。他はどうでもいい」
「いやいや、リリアーナはウイリアムと婚約したじゃねえか。それにお前は婚約破棄した側だからな」
「あれは言わされたんだ! あの時の悔しさは、俺みたいな一途な人間じゃないと分からん!」
「いやいや、リリアーナと婚約してたのにソフィアと浮気してた人間のどこが一途なんだよ」
「運命の相手が二人いたんだから仕方ないだろ」
「いや多分二人ともお前の運命の相手じゃないと思うぞ」
「いいからリリアーナが結婚するまで半年を切ってるんだ。リリアーナの処女が奪われないうちに、王都に攻め上ってリリアーナとソフィアを取り戻すぞ!」
1月後、電光石火の速さで大公領を平定したキモデブは、二万の軍勢で王都に攻め上った。王都近郊でウイリアム王太子率いる王国軍10万はキモデブ軍2万と対峙した。だがその日の夜、ウイリアム王太子は捕縛され王国軍の負けが確定する。
キモデブには暗殺者の数、リーダーや副リーダーの位置を絶対感で正確に把握する能力があった。それは戦場においても同様で、総大将や将の位置、兵の配置を正確につかめた。多くの場合、夜襲は同士討ちを恐れて広範囲では行われない。だがキモデブはそれを実行し、敵が状況を掴めないのををいい事に精鋭3000でウイリアムの本陣に突撃した。レオは念の為ウイリアムに逃げて、別の場所に本陣を敷くよう奨めた。たがこれが仇となってしまう。本来、個人をターゲットにした夜間の追撃など不可能。だがキモデブはウイリアムを最短距離で執拗に追撃した。味方はウイリアムが近くにいても敵か味方すら分からなかったので助けなかった。多くの将が朝まで現場を死守するのが無難だと判断した。
※※※※※※※※※※
神星暦1017年 11月15日。
キモデブはビョウジャク王が捕縛されたウイリアム王太子の命を保証すれば降伏するとの提案をしたが拒否。1週間後、宰相だったリリアーナの父がキモデブと密約を交わした。内容はキモデブがリリアーナを王妃にし、捕縛されたレオを解放すると言うもの。エンブリオン公爵軍が城門明け王都は陥落した。
キモデブはすぐにビョウジャク王を服毒死させ、その遺体を実父のマオトコ大公の墓前に捧げた。
続いてキモデブはウイリアム王太子に服毒を命じたが、リリアーナが自分の命と引き換えにウイリアム王太子の助命を嘆願し、キモデブはリリアーナが王妃になる条件で、ウイリアムを国外追放で許した。
この後ウイリアム王太子はキモデブに敵対する国の騎士として活躍し、キモデブ最大の敵となる。ちなみにキモデブとの直接対決は24戦24敗だった。
神星暦1077年 3月6日。キモデブが最後の敵を滅ぼし、世界制覇を成し遂げた日、ウイリアム王太子は自ら海に身を沈めた。享年79歳であった。なおウイリアムはキモデブと戦った各国の姫と結婚しており、子供の数は30人以上いた。
リリアーナのその後。
リリアーナは皇后となり、キモデブ皇帝に代わり政治をしきり国の基盤を整えた。キモデブとの子供は9男12女に恵まれ、皇帝となった長男以外の男子もまた王となり権勢を振った。だが子孫同士の中は余り良くなく、4人の王が無謀を起こし王位を没収されている。なお12人の女子は女公爵に封じられた。
ソフィアのその後。
ソフィアはキモデブが王都に入城した時、ニートと恋仲になっていた。だがニートが無職のため結婚話は進まず、ニートの父であるサムライ騎士団の団長ローニンもまた、王都陥落時にキモデブに雇って貰えず無職になり浪人となった。このため2人の就職を頼みにキモデブに会いにいった時、男前になったキモデブに一目惚れし、自ら求婚した。第二王妃となったソフィアはキモデブとの間に11男8女に恵まれる。だがキモデブの方針で当初より第一王妃のリリアーナとの地位の差は絶対的で、ソフィアの子供には帝位継承権は与えられなかった。だがいずれも男子も小国の王に封じられ、女子は女伯爵に封じられた。ソフィアの子孫の多くは献身的に帝国に仕えたが、冤罪などで半分の家が滅んだ。
その後もキモデブ帝国は繁栄し、2500年後。キモデブの血は人類120億人に行き渡り、キモデブは人類の祖となった。




