5 馬
まさか森を出る日がこうもあっさり来るとは思わなかった。
初めて街へと足を運ぶ。歩いていくにはかなり時間がかかるから、森にいた馬の協力を得ることにした。
妖精とは少し距離感があるかもしれないけれど、動物は私にとても懐いてくれている。
私がどんな状況になっても、この森の動物だけは私の味方だ。
動物たちが私を裏切らないという事実がなによりも心強かった。だから、ここまで一人でやってこれたのかも。
もちろん、妖精たちが私の傍にいてくれていたことも大きいけど……。
私は馬に乗り、風邪を切りながら街へと向かっていく。
生まれて初めて「自由」を実感しているかもしれない。森が退屈だったわけじゃない。
ただ、何故か分からないけれど言葉にならないぐらいの解放感があった。
森が嫌いなわけでもないし、街に住みたいとも思わない。
それなのに、どうしてこんなにも自由を感じるのだろう。
「……私、街で浮かないよね?」
街へ近づいて来ると、どこか臆病な私が出て来る。
あんなに果敢に森を出たのに、今更どうして怖気づいているのだろう。
自分に嫌気がさす。もっと堂々としていて大丈夫。絶対に魔女ってバレない。
私はそう自分に言い聞かせ続けた。
馬は私の意思とは反対にどんどんスピードを上げていく。
てか、白馬って目立つよね……?
森で適当に選んだ馬だけど、ちゃっかり白馬だった。この最高級の毛並み……。
売れば、お城一個は買えちゃうかもしれない。
そもそも白馬はとても稀少価値がある。それに加えて、この凛々しい馬の品格。これは高く売れるに違いない。
……勿論、売らないけどね!
私の心の中を読み取ったのか、馬は私の方を訝し気に見てきたような気がした。
「大丈夫、売らないから」
私の言葉に馬は少し安心した様子を見せた。
「売るなら食べるから」
そう付け足すと、馬はヒヒーンと嘆き始めた。
どうやらちゃんと私達の言葉を理解しているようだ。……馬の心を傷つけたら、街へと送ってくれないかもしれない。
ここは一つ褒めておこう。
「上等な馬は美味しいに違いないからね」
更に脅してしまったのか、馬の走る気力が一気になくなったように思えた。
私と馬は馬が合わないのかもしれない。ハハハ~~ッ。
兎にも角にも、この白馬は隠しておかなければならない。
このまま街へ入ったら目立ってしょうがない。きっとすぐに人だかりが出来てしまう。
それだけは何としても避けたい。
街へ入る前に、どこかに置ければと思ったけれど、白馬を隠せるような場所なんてない。
馬が白いせいでこんなにも行動を規制さえるなんて……。
これからは絶対に茶系の馬にしよっと。ごめんね、白馬。