4外出
なんの変哲もない日々が安全だと分かっているけれど、街に出たくなってしまう。
一度でいいから街の賑わいをこの身で実感してみたい。
……刺激を求めたらだめ、って昔、母に言われたことがある。けど、刺激のない人生なんてつまらない。
このまま死んでいくなんて嫌だ。
私はもっとこの世のことを知りたい。この目で見て、この耳で聞いて、肌に触れて、この世界を理解しないと。
行くなら今しかない!!
私はクローゼットからマントを取り出した。頭から被り顔が見えないようにする。
念の為、髪に魔法をかけておこう。
淡い水色はゆっくりと黒髪へと変わっていった。
そこまでがっつり変装はしなくても大丈夫な気がする。
この気の緩みがダメなのかな……。変装じゃなくて、魔法を使って変身でもしとくべき?
けど、変身魔法はあんまり得意じゃない。
『どこ行くの??』
妖精たちが私の周りを囲い始めた。
普段と違う私に違和感を抱いたのか不思議そうな瞳で妖精たちは私を見つめている。
「森を出るの」
私は短くそう答えた。
干渉されたくない。そもそも、彼らが私を止める理由などない。愛してもいない魔女のことを心配なんてしないだろうし。
『え』
妖精たちは少し困惑した表情を浮かべる。
思っていた反応と違う。ふ~~ん、って塩対応かと思っていた。
「そんなに驚くこと?」
『外に出たいの?』
「家はここだからまた戻って来るけどね」
長旅に出るわけではない。ただ少し街まで出かけるだけだ。
なんの危険もない。私が魔女だとバレなければの話だけど……。
『なんで急に?』
『私たちのせい?』
『僕らが嫌になった? ココに対して冷たいから?』
妖精たち、急にどうしたの!?
ただ街の様子が気になっただけで、今の環境が嫌になったわけじゃない。
もしかして、これはとんでもない誤解を生んでる……?
てか、あたふたしてる妖精たち可愛い。
「えっと~~、ただ気分転換したいだけだよ」
『気分転換……』
「そ! 街の雰囲気を感じて、楽しかった~ってなってくるだけ」
なんか説明が間抜けっぽいな、私。
もう少しましな説明の仕方があっただろう。
『今日帰って来る?』
「うん、今日帰る。日帰りで」
妖精たちが急にお母さん化してしまった。
普段愛されていないのに、こういう時だけ心配してくるなんて……。
なんやかんや、私そこまで嫌われていないのかもしれない。
『約束して!!』
何をそんなに必死なのだろう。
私がいなくなったらそんなにまずいの……?
妖精たちって別に魔女がいなくても生きていけるはずなのに。魔女が妖精の力を借りることはよくあっても、逆はあまりない。
魔女の方が妖精に依存しがちだ。
「約束する、誓うよ。今日中に戻って来る」
妖精を安心させるためにそれだけ言って、森を出た。