3 妖精
『私たちとはお話しているじゃない』
妖精たちの声が聞こえる。
神秘的で美しい妖精というよりかは、可愛らしく愛嬌のある妖精たちだ。羽があり、特に性別はない。ただ、一般的に男女で区別されているような気がする。
私は生まれてきた時からずっと妖精が見える。森を歩きながら私は妖精たちの言葉を聞いておく。
『ココの話し相手になってあげてるじゃない』
『そうだそうだ~~』
貴方たちは人間じゃないでしょ、と心の中で呟く。
私はあまり妖精と話したくない。なぜなら、私は魔女の中でも珍しく妖精にあまり好かれていない。
極めて稀な現象だ。私の母親はとてつもなく妖精に愛されていた。鬱陶しいぐらいに精霊の寵愛を受け、妖精が慕っていた。
それなのに私ときたら……。
良い魔女は好かれているはずなんだけどね。どうやら私は良い魔女ではないらしい。
『ココのくせに僕らのこと無視してる~~』
『なんか喋ってよ』
私の名前はココ。
変な名前だよね。しかも魔女だから苗字はない。
……ただ、ココって名前は自分で名付けた。元々、母にココロという名前を付けてもらっていたけれど、私には似合わない。
妖精にも愛されていなくて、一人ぼっりの私が、ココロなんて名乗れない。
だから、名前を自ら変えた。
『ねぇ! なんか喋って!』
「何を?」
『あ、喋った~~!』
妖精は私のことは別に好きではないが、私が妖精を見ることが出来るから絡んでくる。
それに、彼らは私のことを特別助けたりなどしないけど、私のことを虐めたりなどもしない。
だから、上手く共存出来ているのだと思う。
……てか、私って昔から妖精に嫌われてたっけ?
『昔は皆、ココのこと大好きだったじゃん~~! 忘れたの~~?』
妖精は人間の心の中が読める。
私の心の声を聞いたのか、一人の妖精が私をじっと見つめながらそう言った。
「嘘、覚えてない」
私の言葉に周りにいた妖精たちが一斉に『え~~~』と声を上げた。
「そんなに驚く!?」
『うん。びっくりだよ』
『私たちめっちゃココにべったりだったもんね~~』
『ね~~~!!』
全く記憶がない。
もしかして、誰かと間違えてない……? 私の母親とか。
『間違えているわけないじゃん』
「じゃあ、どうして今、私は妖精に嫌われてるの?」
『ん~~~、一人の男の子を魔法で傷つけたからだよ』
その言葉に心臓がビクッと跳ねて、止まったような感覚になる。
八年間ずっと考えてこなかった。一人の少年。
私は自分のエゴで彼から自分の記憶を消して、もう二度と会わないようにした。
その罪がそんなに重かったの? ……確かに魔法は人を助けるために使わなければならない。
「け、けど、彼は私のこと少しも思い出さないじゃない」
『それが酷なの~~!』
『なの~~!!』
「どうして?」
『生涯で最も好きだった女の子のこと思い出せないんだよ?』
……彼はそんなに私のことを好きだったの?
「これから先、私より素敵な女性に会うでしょ。……てか、もう会ってるかもしれないし」
自分の声が少し震えるのが分かった。
どうして今頃になって彼のことを思い出さなければならないの。
私はその場を逃げるようにして、家へと戻った。妖精はそれ以上、私に追及してこなかった。
ココを見送りながら、妖精たちは小さな声で話していた。
『ねぇ、ココにあの魔法について詳しく言わなくてもいいの?』
『当時のココはまだ未熟だったもんね~~』
『今は言わなくてもいいんじゃない。それに、王子様ともう会うこともないだろうし』
『…………それは分かんないけどね』