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愛して、忘れて、また出会う  作者: 大木戸 いずみ
1/5

1 さよなら

「こんなにも誰かを想うなんて、後にも先にも君だけだ」


 そう言った少年の記憶を私は消した。

 十歳という子どもの恋愛だったけれど、それでも私たちは真剣だった。

 お互いの状況や立場を理解し、この息苦しい世界での癒しが彼だった。彼もきっとそうだったと思う。

 もう二度と会わない方が良い。これは私の独断。

 彼の中から「私」という存在を消した。……これで良かったのだと思う。


 記憶を消したのと同時に、彼を眠らせた。

 森を抜けた大きなお花畑で彼は何も知らずに寝ている。起きれば、私のことなど綺麗さっぱり忘れているのだろう。

 きっと、夕方になれば、衛兵たちが彼の元へと駆けつけてくる。

 

 記憶を消すのは簡単だった。魔法をかければいい。

 ただ、自分に魔法をかけることが出来ない。これからもずっと、心の片隅に彼がいるのだろう。

 ……そう思うと、ちょっと悔しい。

 私も忘れよう、貴方を愛したことを。


「今までありがとう」


 少年の綺麗な額に私はそっと口づけをした。

 いつかまた違う形で出会えるのなら、今度は恋人になりたい。

 まだ人生を十年しか生きていないけれど、私は本気でそう思った。

 私たちは絶対に結ばれることのない運命なのだから、それを受け止めなければならない。

 傷は浅いうちに……。

 このサラサラの金髪に触れることも、この澄んだ青い瞳に私が映ることももうないのだろう。

 彼はまさに物語から出てきた王子様そのものだった。

 とめどなく涙が流れる。止めたいのに、止めることなど出来ない。私の涙が、彼の頬に落ちる。

 

 こんなに苦しい思いをするのは私だけでいい。

 貴方は全て忘れて、幸せに暮らして。

 自分のエゴだと分かっているし、貴方がこんな終わり方を望んでいないことも知っていた。

 でも、こうしなければならない。貴方が王子で私が魔女である限り。この終わり方が最もハッピーエンドなの。

 安心して、私もそのうち忘れるから。

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