24 正面玄関から堂々と入った場合は、不法侵入は適応されない説
そしてドアをバタンと閉めた撫子は、家の雰囲気をうかがいながら言った。
「どうやら他の家族は居ないみたいね。好都合だわ」
「お姉ちゃん、これって不法侵入だよね?」
「大丈夫よ。正面玄関から堂々と入った場合は、不法侵入は適応されないから」
泥棒もビックリの理屈を展開させながら、撫子は靴を脱いで廊下に上がった。
「さ、遠慮せずに上がって」
いや、ここはお姉ちゃんの家じゃないでしょ、
と突っ込むのももはや無駄な気がするので、紳士クンも靴を脱いで
「お、おじゃまします」
と呟きながら廊下に上がった。
「ここね」
二階にやって来た撫子と紳士クンは、
『Shizuka』と書かれたプレートがかかった部屋の前に立った。
そして撫子は紳士クンの肩にポンと手を置いてこう言った。
「じゃあ乙子、頼んだわよ」
「え?ええっ⁉そうなの⁉」
「当たり前じゃないの。ただでさえ今の静香さんは、
私達が勝手に家に上がりこんできて怯えているのよ?」
「あ、一応勝手に上がり込んだっていう自覚はあるんだね」
「まあね。で、そんな所に私が現れたら、
静香さんは失神とかしちゃいそうじゃない?
だからここはあんた一人で部屋に入って、色々話を聞き出しなさい」
「う~ん、本当にいいのかなぁ?」
「いいの!これは静香さんの為なんだから、自信持ってやりなさい!」
「わ、分かったよ。ボク、やってみる」
紳士クンがそう言って頷くと、
撫子は「よし」と言って紳士クンの両肩を掴み、
一転してドスを利かせた声になってこう続けた。
「ただし、密室で二人きりになったからって、
静香さんに変な事しようとしたら承知しないからね?
その時はあんたの息の根を止めるわよ?」
「そ、そんな事しないよ!する訳ないじゃないか!」
紳士クンは必死にそう訴えると、撫子はニコッと笑って言った。
「冗談よ冗談。あんたはそんな事はしないわよね。
じゃ、私はこっちの部屋で昼寝でもしてるから、
話が終わったら起こしに来てね」
そして撫子は隣の部屋に足を踏み入れ、
床に置いてあったクッションを枕にしてゴロンと横になった。
「お姉ちゃん・・・・・・」
無茶な事をやるだけやって、最後は弟に丸投げという姉の傍若無人ぶりに、
紳士クンは深いため息をついた。
が、すぐに気を取り直し、静香の部屋の前に立った。
そしてにわかに震える右手で、目の前のドアをコンコンとノックした。




