16 日鳥希里のスカウト
翌日の昼休み、紳士クンは撫子の居る二年藤組の教室にやって来た。
昨日は撫子があんな風に言っていたが、やっぱり静香の事が心配になり、
いてもたってもいられなくなったのだ。
紳士クンは引き戸を開け、教室の中を見渡した。
するとそんな紳士クンの姿に気付き、近くに歩み寄って来た人物が居た。
ちなみにそれは撫子でも静香でもなく、
この前の特別授業で紳士クンがメイドとして仕えた日鳥希里だった。
今日も肩までのびた黒髪に赤くて大きなリボンをつけている。
「あ、希里お姉様。その節は色々お世話になりました」
希里に気づいた紳士クンは、そう言って希里に頭を下げた。
それに対して希里はニコッと笑ってこう返す。
「お世話になったのは私の方よ。
あなたが居なかったら、私の家族はあのままバラバラになるところだった。
だからあなたにはとても感謝しているの。本当にありがとう」
希里はそう言うと、深深と紳士クンに頭を下げた。
それを見た紳士クンは恐縮しながら言った。
「と、とんでもないですよ!
ボクはボクのできる事をしただけですし、
希里お姉様に頭を下げていただくような事をした訳じゃありません。
だからどうか頭を上げてください」
すると希里はスッと頭を上げ、再びニコッと微笑んだ。
そんな希里に紳士クンは尋ねた。
「あれから、ご両親の様子はどうですか?」
「おかげさまで仲良くやってるわ。以前よりもずっといい雰囲気よ」
そう言って微笑んだ希里の表情に、以前のような暗い影は感じられなかった。
それを察した紳士クンは、
「それは、何よりですね」
と言って心から微笑んだ。
すると希里は一転してイタズラっぽい笑みを浮かべてこう言った。
「ところで乙子、もしよければ、私の専属メイドにならない?
今度はちゃんとお給料も出すわよ♪」
「ええ?それはちょっと・・・・・・」
と、紳士クンが困った笑みを浮かべていると、
希里の背後に現れた撫子が、ドスを利かせた声でこう言った。
「ちょっと希里さん?
人の妹を勝手にメイドとしてスカウトしないでくださらない?」




