15 過去の辛い出来事
「え?でも・・・・・・」
「帰るわよ!お兄ちゃん!」
目を丸くする色雄の手を引き、静香はそう言ってそのまま立ち去って行った。
その時紳士クンが見た静香の表情は、何かとても辛そうなものであった。
まるで過去のトラウマを、思い出したかのような・・・・・・。
「何なのよあの子、いきなり帰るなんて」
不満げな顔で腕を組み、口をとがらせる撫子。
そんな撫子に、紳士クンは神妙な口調で言った。
「きっと、人には言えないような辛い過去があるんだよ。
思い出すだけでも胸が痛くなるような辛い過去が・・・・・・」
中学時代まで男女などと呼ばれて辛い思いをした紳士クンは、
そんな静香の心中を察したのだった。
が、そういう辛い事があってもこれまで力強く乗り越えてきた撫子は、
紳士クンにズズイッと詰め寄ってこう続けた。
「じゃあその辛い過去ってのが、あの子の女性恐怖症の原因なんじゃないの?
それが分かれば、女性恐怖症を克服する手掛かりになるかもしれないわ」
「でもどうやってそれを聞き出すの?静香さんは話したくなさそうだったし」
「だったらさっきの双子の兄貴に聞けばいいじゃない」
「あの人は男子部の生徒だから、こっちから会いに行く事はできないよ」
「じゃあやっぱり本人に聞くしかないじゃないの。
大丈夫よ、明日私がどんな手を使ってでも、
過去に何があったか聞き出してみせるわ」
「ええ?無理やり聞き出すのは駄目だよ。静香さんが可哀相だよ」
「何が可哀想よ!これは彼女の為なのよ?
私がやろうとしている事は人助けなのよ、人助け!」
「そ、そうかなぁ?」
「そうなの!とにかく明日彼女から聞き出しておくから、
あんたは大船に乗ったつもりで待ってなさい!」
「う、うん・・・・・・」
姉の自信満々の言葉に頷いた紳士クンだったが、内心は不安で一杯だった。
(本当に、大丈夫かなぁ?)




