5 意外と強い腕力
一方の紳士クンは、困った顔をしてポリポリと頭をかいた。
(何か、思ったよりも事態は深刻なんだなぁ。
っていうか静香さんって、本当に女の人が苦手なんだ・・・・)
そう思った紳士クンは、静香の肩にポンと手を置いて言った。
「とりあえず、その彼女に謝りましょう?謝ればきっと許してくれますよ」
しかし静香は両手で顔を覆ったままこう返す。
「だけど私、どんな顔をして彼女に会えばいいか・・・・・・」
「大丈夫ですよ、ボクも協力しますから。
それでこの機会に、女性が苦手な性格も克服しちゃいましょう。ね?」
「乙子さん・・・・・・」
紳士クンの言葉に、再び瞳を潤ませる静香。
すると紳士クンはニコッと笑ってこう続けた。
「じゃあさっそく謝りに行きましょう。一度謝っちゃえば、後は楽になりますから」
そして紳士クンはそのまま校舎の方へ歩き出そうとした。
が、静香は慌てて
「ま、待ってください!」
と声を上げ、後ろから紳士クンに抱きついた。
「うわあっ⁉何をするんですか静香さん⁉」
いきなり静香に抱きつかれてドギマギする紳士クン。
が、それも一瞬の事で、静香は両腕にグッと力を込め、
紳士クンの体を思いっきり締め上げた。
「ぐえええっ!し、静香さん!苦しい!息ができない!」
必死に訴える紳士クン。
しかし静香は目をつむったままこう返す。
「いきなり謝りに行くなんて無理です!絶対無理!」
「だ、だからっ!ボクも一緒に行きますから!それなら大丈夫でしょ⁉」
「そういう問題じゃないんです!
今はまだ心の準備ができてないんです!だからダメェッ!」
「わ、分かりましたから!ぐええっ!今日はやめときますから!
とりあえず離してください!」
紳士クンがそう叫ぶと静香はハッと我に返り、紳士クンから両手を離した。
そしてようやっと解放された紳士クンは、その場に跪いてむせ返った。
「ゴホッ!ガハッ!し、死ぬかと思った・・・・・・」
「ご、ごめんなさい。
私、パニックになると、力の加減ができなくなるので・・・・・・」
「し、静香さんって、意外と力があるんですね・・・・・・」
「小さい頃から男ばかりの環境で育っているので、
結構体の方は鍛えられているんです」
「そ、そうなんですか」
息を切らしながらそう言って、紳士クンはよろめきながら立ち上がった。
どうやら静香に正攻法を用いるのは無理があるようだ。
かといって力ずくで何とかしようとしても、逆に力ずくでねじふせられてしまう。
(これは一筋縄じゃあいきそうにないな)
そう思うと、紳士クンの口から自然とため息が出た。
前途が多難なこの問題。
果たして紳士クンは解決する事ができるのか?




