2 特別授業
するとそんな紳士クンに、撫子は「そういえば」と言ってこう続けた。
「あんたの学年、そろそろ『特別授業』があるんじゃない?」
「え?特別授業って?」
「メイドになるのよ」
「え?メ、メイド?メイドって、あのメイドさん?」
「そう、そのメイド。
で、一年生がメイドになって、上級生のお姉様にお仕えするって訳」
「っていう事は、ボクもその、メイドさんの格好をしなくちゃいけないの?」
「もちろんよ。乙子ちゃんのメイド姿、今から楽しみだわ」
そう言ってさも愉快そうな笑みを浮かべる撫子。
対する紳士クンは、
「そ、そんなぁ・・・・・・」
と呟きながら顔を引きつらせた。
すると、その時だった。
「オ・ト・コ・ちゃん♡」
という声とともに、一人の人物が背後から紳士クンに抱きついた。
「わわっ⁉」
思わず声を上げて後ろに振り向く紳士クン。
するとそこに、エジオニア学園女子部の生徒会長にして、
紳士クンをこの学園の女子部に無理矢理入学させた張本人でもある、
凄茎令の姿があった。
「れ、令お姉様、ごきげんよう・・・・・・」
紳士クンが顔を引きつらせながらそう言うと、
令は「はい♡ごきげんよう♡」と言ってニッコリ微笑んだ。
その令に撫子が声をかける。
「令お姉様、今日はいつにも増して御機嫌ですね。何かあったんですか?」
すると令は紳士クンに抱きついたままこう答えた。
「だってぇ、もうすぐ一年生は特別授業があるでしょ?
それを思うと今から楽しみで♡」
そして令は紳士クンの体を一旦離し、
紳士クンをクルッと自分の方に振り向かせてこう続けた。
「乙子ちゃんはもちろん、私のメイドさんになってくれるのよねぇ?」
「えっ?いや、えーと、まだそこまで考えてなくて・・・・・・」
苦笑いを浮かべながら紳士クンが答えると、
令は一転して真剣な顔になり、紳士クンに詰め寄った。
「どうして⁉
ま、まさか、他にメイドとして仕えたい上級生が居るって言うの⁉
私という者がありながらひどいわ乙子ちゃん!」
「ち、違いますよ!
そうじゃなくて、特別授業の話自体さっきお姉ちゃんから聞いたばかりで、
誰にお仕えしたいとかいうのはまだ決まってないんですよ!」
「嘘おっしゃい!私以外に意中の相手が居るのね⁉そうなんでしょ⁉」
紳士クンの弁解も聞かず、
そう言って紳士クンの肩をガックンガックンゆさぶる令。
するとそれを見た撫子が慌てて止めに入った。
「お、落ち着いてください令お姉様!これは乙子が決める問題ですから!」
それに対して令はキッと撫子を睨みつけてこう返す。
「ナッちゃん、あなたまさか、姉という立場を利用して、
乙子ちゃんを自分のメイドにしようと企んでいるんじゃないでしょうね?」
「ええっ⁉そんな訳ないじゃないですか!」
両手をブンブン横に振って撫子は言った。
が、一転してしおらしい口調になってこう続ける。
「ま、まあ、乙子がどうしてもって言うなら、
私のメイドにしてあげなくもないですけど?」
いつもは紳士クンに厳しいが、本当のところはかなりのブラコンである撫子だった。
するとそれを見てとった令が、撫子に食ってかかった。
「やっぱりそうじゃないの!ズルイわよナッちゃん!
乙子ちゃんは私のモノなんだから!」
それに対して撫子も怯まず言い返す。
「まだそうと決まった訳じゃないでしょ!
何でもかんでも令お姉様中心に物事が進む訳じゃないですよ!」
「何ですってぇっ⁉」
そう言って睨み合う令と撫子。
そのあまりの迫力に、紳士クンは間に割って入る事ができなかった。
なのでクルッと踵を返し、
「じゃ、じゃあボクは先に行きますんで!」
と言い残し、一目散に校舎へ向かって駆けだした。
背後から令の
「あ!待ちなさい乙子ちゃん!」
という声が聞こえたが、紳士クンは構わず走り去った。
そして走りながら心の中でこう思った。
(ボク、本当にメイドさんにならなきゃいけないの?)