12 人生最大の試練
著者が女性下着について横道に逸れる中、
紳士クンは目をつむって自分にこう言い聞かせていた。
(大丈夫。笑美さんが試着を終えてそれを気に入れば、
あとはそのお会計を済ませるだけ。そしたらここから出られる。
時間にすればあと十分くらいのはず。だから大丈夫。大丈夫)
そう念じながら紳士クンは、眉間にシワを寄せながら唇を噛みしめた。
まるで滝に打たれる修行僧のような紳士クンの気迫に、
周りの店員さん達は誰も声をかける事ができなかった。
これで後は笑美が試着室から出て来るのを待つのみ。
と、思われたその時だった。
「乙子ちゃ~ん」
と、その笑美が試着室のカーテンの端から顔だけを出し、紳士クンに声をかけた。
「へ?あ、何?笑美さん」
ハッと我に返った紳士クンは、マヌケな声で笑美に尋ねる。
すると笑美は軽い口調でこう言った。
「つけてみたから、ちょっと見てくれへん?」
「へ?」
その言葉の意味が分からなかった紳士クンは、更にマヌケな声で尋ねた。
「え?見るって、何を?」
「だから、ウチの下着姿。乙子ちゃんの意見も聞いてみたいから」
「へ?ボ、ボク?見て、いいの?」
「当たり前やんか。その為に一緒に来てもらったんやから」
笑美は事もなげにそう言うと、顔をカーテンの中に引っ込めた。
一方の紳士クンは、何かもう頭の中が大変な事になっていた。
(どえええっ⁉ボ、ボクが笑美さんの下着姿を⁉
どえええっ⁉み、み、見る⁉どえええっ⁉どえええっ⁉)




