10 鼻の奥のウズキ
「ねえねえ、これなんかどう?ちょっと乙女ちっく過ぎるかなぁ」
その下着はブラジャーとショーツに可愛らしいフリルが縫い付けられた、
淡い水色のものだった。
それを見た紳士クンは、無意識にこの下着を身に付けた笑美の姿を想像してしまった。
そして想像の中の笑美は、やけに色っぽい声色で紳士クンに語りかけた。
『ねぇ乙子ちゃん、この下着、似・合・う?』
「んんっ!」
鼻の奥から血液がこみ上げるような感覚に襲われた紳士クンは、
咄嗟に自分の鼻を右手でつまんだ。
下着姿の女性等、
紳士クンが隠し持っているアハ~ン♡な本である程度馴れてはいるが、
身近な女の子の下着姿となると、その刺激たるや筆舌に尽くしがたいものがあった。
すると笑美が目をパチクリさせながら紳士クンに尋ねた。
「どうしたん乙子ちゃん?何か匂うの?」
それに対して紳士クンは、鼻声でこう返す。
「だ、大丈夫だよ?ちょっと鼻の奥がかゆかっただけだから。
あ、あはは・・・・・・」
「そうなん?それならええけど。
ところで乙子ちゃんも自分の欲しいやつを探してみたら?
ここのお店は値段もお手頃やから買いやすいよ?」
「う、うん、そう、だね・・・・・・」
冷や汗をダラダラ流しながら答える紳士クン。
一応笑顔を浮かべてはいるが、顔色は真っ青だった。
「大丈夫?何か乙子ちゃん、顔色悪いみたいやけど」
心配そうに紳士クンの顔を覗き込む笑美。
それに対して紳士クンは必死に笑顔を保って言った。
「だ、大丈夫大丈夫。それよりその下着、気に入ったなら一度試着してみたら?」
「え?うん、そうやね。ちょっとつけてみようかな」
紳士クンの言葉に頷いた笑美は、
近くの店員さんに声をかけて試着室まで案内してもらった。
一方ある意味絶体絶命の大ピンチを切り抜けた紳士クンは、
「はぁあああ・・・・・・」
と魂が漏れ出そうな深いため息をついてガックリうなだれた。
(とりあえずこれで一息つける)
何回か深呼吸をして幾分落ち着いた紳士クンは、気を取り直して顔を上げた。
すると紳士クンの目に数多の下着が再び飛び込んできた。
(わぁああっ⁉)
心の中で絶叫する紳士クン。




