1 お出かけのお誘い
「なあなあ乙子ちゃん、明日の日曜日、ウチとお買い物に行けへん?」
ある土曜日の放課後、終礼を終えた教室で、笑美は紳士クンにそう言った。
「え?買い物?何か買いたい物があるの?」
紳士クンが鞄に教科書を入れながら尋ねると、笑美はニコニコしながら言った。
「そうやねん。乙子ちゃんは明日何か予定あるの?」
「いや、ないけど」
「じゃあ決まりやね♪待ち合わせは何処にしようかなぁ」
と、笑美が腕組みをしながら考え込んでいると、
「何を抜け駆けみたいな事をしようとしてるんですかぁ~」
まるで井戸から這い出た死霊のごときおどろおどろしい声とともに、
華子が紳士クンの背後から現れた。
「うわぁっ⁉あんた今の話聞いてたんか⁉」
バツの悪そうな顔で声を上げる笑美に、
華子はおどろおどろしい口調で続ける。
「私に黙って二人でお出かけの約束なんてひどいじゃないですかぁ~。
末代まで呪いますよぉ~」
「お出かけの約束をしたくらいで何でそこまでされなあかんねん⁉
あんたが言うと生々しいねん!」
怒りの声を上げる笑美。
すると傍らの紳士クンが苦笑しながら華子に言った。
「あの、よかったら華子さんも一緒にどう?」
「なっ⁉あかんて乙子ちゃん!」
笑美が小声でそう叫んだが、華子は構わずこう言った。
「そうですね、そういう事なら私もご一緒させてもらいましょうか」
「ガーン・・・・・・」
そう口に出して露骨に残念そうな顔をする笑美。
すると華子も残念そうな顔になってこう続けた。
「と、言いたい所なんですが、あいにく明日はちょっと家の用事がありまして、
皆さんとご一緒する事はできないんです。
なので明日は二人で楽しんで来てください」
「そうなんだ、それは残念だね」
そう言って残念そうな顔をする紳士クンの傍らで、
笑美は会心のガッツポーズをした。
すると華子はガシッと紳士クンの両手を掴んでこう続けた。
「ところで今度、私が大好きなホラー映画の続編が公開されるんですが、
その時は私と二人で(、、、)見に行きましょうね!ね!」
「え、で、でも、ボクは怖いのはちょっと・・・・・・」
「大丈夫です!絶対面白いですから!
必ず行きましょうね!約束ですからね!それじゃあ!」
華子はそこまで言うと、踵を返して早足で教室から出て行った。
そんな華子の後ろ姿を見送りながら、笑美は呆れた口調で言った。
「マッタク、相変わらず強引なやっちゃなぁ。
乙子ちゃんの返事をロクに聞きもせんと」
「アハハ、でも、華子さんも一緒にお出かけできないのは残念だね」
「ええねんええねん!
あの子が来たらまたしょうもない言い争いをせんとあかんねんから!
それにウチは明日、乙子ちゃんと二人でお出かけしたいの!」
「そ、そうなの?」
「そうやの!だから明日は絶対二人でお出かけしようね!」
「う、うん、分かった」
両手を握ってズズイッと迫る笑美に気押された紳士クンは、
たじろぎながら頷いた。
かくして紳士クンは日曜日に笑美と二人でお出かけする事になったのだが、
実のところ紳士クンは、
姉の撫子以外の女子とお出かけするのは初めての経験だった。
はてさて、どうなる事やら。




