25 男の本分
「バカッ、あんたはキッチンに居なさいって言ったでしょ!
危ないから引っ込んでなさい!」
希里は紳士クンにそう言ったが、紳士クンは男を見据えたままこう返す。
「いいえ引っ込みません!ここはボクが希里お姉様をお守りします!」
「乙子・・・・・・」
紳士クンの力強い言葉に、希里はそう呟いて黙り込む。
すると男は眉間にシワを寄せながら紳士クンに言った。
「誰だお前は?希里の友達か?
しかもその格好は何だ?コスプレごっこか?」
それに対して紳士クンは強い語気でこう返す。
「コスプレごっこなんかじゃありません!
これは学園の特別授業の一環で、ボクがメイドとなって、
希里お姉様の身の周りのお世話をしているんです!」
「特別授業だぁ?そんな事俺が知るかよ。
とにかくどけよ、俺は希里に話があるんだよ」
男はそう言って紳士クンをどかそうとするが、
紳士クンはそこに踏みとどまって言った。
「ボクはここをどきません!
もうこれ以上希里お姉様を悲しませるような事はしないでください!」
「うるせぇよ!いいからどけよ!」
「どきません!」
「どけって言ってんだろ!」
「絶対にどきません!」
「この野郎!」
男はそう叫ぶと、紳士クンの顔面を思い切り殴った!
バコォッ!
「くっ!」
その衝撃でその場に尻もちをつく紳士クン!
それを見た希里は
「乙子!」と声を上げて紳士クンのそばにしゃがみこんだ。
紳士クンは今のパンチで口を切ったようで、唇の端から血が流れ出ていた。
「大変!すぐに手当てしなきゃ!」
希里はそう言ったが、紳士クンは
「いえ、大丈夫です!」
と言って立ち上がり、再び男を睨みつけた。
すると男は怒りに満ちた表情で紳士クンに怒鳴った。
「一体何なんだよお前は⁉そんな目で俺を見るな!
俺だってちゃんと働いて家族を食わしてやってんだ!俺の好きにして何が悪い⁉」
しかし紳士クンも怯む事なく言い返した。
「お金を稼ぐ事だけが全てじゃないでしょう⁉
それで家族を悲しませたら何にもならないでしょうが!
男は大切な人を守るのが本分でしょ!
それなのにあなたは何をやってるんですか!」
「ぐ、ぬ、このっ!」
紳士クンの言葉に、男は目を血走らせながら歯を食いしばった。
そして再び拳を振り上げて紳士クンを睨みつける。
しかし紳士クンも一切目を逸らさずに男を睨み返すと、男は
「くそっ!」
と言って拳を下ろし、踵を返して玄関のドアを乱暴に開け、そのまま外へ出て行った。
少し間を置いて、
「こ、怖かった・・・・・・」
と呟きながら、紳士クンはその場にへたり込んだ。
するとそんな紳士クンに、希里はガバッと後ろから抱きついてきた。
「き、希里お姉様?」
顔を赤くしながらドギマギする紳士クン。
その紳士クンに、希里はしぼり出すような声で言った。
「乙子、ありがとう・・・・・・」
そして希里はそれ以上何も言わず、暫くの間紳士クンに抱きついていたのだった。




