21 イッショニオフロニハイロウヨ
「ごちそうさま」
その日の夜、紳士クンが作った昨日のカレーの残りを平らげた希里は、
両手を合わせてそう言った。
「はい、お粗末様でした。でもよかったんですか?今日の夕食もカレーで」
紳士クンは申し訳なさそうに言ったが、希里は上機嫌な様子でこう返す。
「いいのよ。カレーは一日経ってからの方がおいしいし、
私は一週間連続でカレーでも平気よ?」
「ハハハ、よっぽど好きなんですね」
「ま、以前はお母さんがしょっちゅう作ってくれたからね。
そういう体になっちゃってるのよ」
「ああ・・・・・・」
紳士クンはそう言って頷き、暫く黙りこんだ後、覚悟を決めたようにこう言った。
「あの、希里お姉様のご両親は、もうここへは戻って来ないんですか?
また以前のように、皆で仲良く一緒に暮らす事はできないんでしょうか?」
それに対して希里は、苦笑しながら腕組みをして言った。
「う~ん、それは難しいんじゃないかな。
二人とも離婚こそしてないけど、
ヨリを戻そうっていう気はサラサラないみたいだから」
「そんな、元は一緒に暮らしていた家族なのに・・・・・・」
「でも、お父さんとお母さんは元は他人同士だからね。
そんな他人同士が家族になって一緒に暮らすなんて、そうそうできる事じゃないのよ」
「そう、なんでしょうか・・・・・・」
紳士クンは悲しそうにそう呟いてうつむいた。
すると希里はひとつため息をつき、ポンと両手を合わせてこう言った。
「そうだ。ねぇ乙子、一緒にお風呂に入ろうよ」
「え?」
希里の言葉に目を点にする紳士クン。
頭の中が真っ白になり、一瞬その言葉の意味が理解できなかった。
が、その言葉の意味を三秒かけてようやく理解した瞬間、
目を大きく見開いて驚きの声を上げた。
「ええええっ⁉な、な、何を言い出すんですか希里お姉様⁉」
「何って、一緒にお風呂に入ろうって言っただけじゃないの」
「そ、そんなのマズイですよ!」
「何がマズイのよ?同じ女同士なのに」
「そ、それは・・・・・・」
まさかここで
『実はボク、男なんです!』
とぶっちゃける事もできず、言葉を詰まらせる紳士クン。
そして必死に言い訳を考え、咄嗟にこう言った。
「だ、だってボクは希里お姉様のメイドですから!
ご主人様とメイドが一緒にお風呂に入るなんて、いけない事だと思います!」
するとそれを聞いた希里はプッと吹き出して言った。
「アハハハッ!あんたって変な所で真面目よねぇ。
そんな事気にしなくてもいいのよ。
いや、むしろこの場合はそれを利用した方がいいのか。
乙子、ご主人様の命令よ。私と一緒にお風呂に入りなさい」




