19 希里VS令
紳士クンと希里は、昨日と同じ裏庭のベンチにやって来た。
そして紳士クンから受け取ったお弁当のふたを開けた希里は、
その中身を見て嬉々とした声を上げた。
「お~っ、なかなかうまくできてるじゃないの~」
紳士クンが作ったお弁当には、
綺麗に巻かれた卵焼きとタコさんウインナー。
そして俵型ににぎられたおにぎりが入っていた。
「味とかは、あんまり自信がないんですけど・・・・・・」
紳士クンは頬をポリポリかきながらそう言ったが、希里は
「大丈夫でしょ」
と言って両手を合わせた。
と、その時だった。
希里の前に長身の女子生徒がヌッと現れた。
そして希里と紳士クンが顔を上げるとそこに、怒りに顔を歪めた令が立っている。
その令に対し、希里は薄い笑みを浮かべて言った。
「これはこれはどなたかと思えば、生徒会長の令お姉様じゃありませんか。
一般生徒のこの私に、一体何の御用ですか?」
すると令は紳士クンをチラッと見やってこう言った。
「どうしてあなたが、この子をメイドに連れているのかしら?」
「それはもちろん、私がこの子の給仕カードを持っているからです。
ただそれだけの事ですよ」
軽い口調で答える希里に、令は険しい口調で続けた。
「でもその子は本当なら、私のメイドになるはずだったの。
だから今からでも、その子を私に譲ってもらえないかしら?」
「残念ながらそうはいきません。
何故なら私とこの子の間には、
主人と使用人の仲を超えた、深い絆が生まれたからです」
「なっ⁉主人と使用人を超えた深い絆⁉それは一体どんな絆なの⁉」
「その辺りは、令お姉様の御想像にお任せします」
「どういう事なの乙子ちゃん⁉
私というものがありながら、違う子と深い仲になるなんて!」
希里の言葉に激高した令は、そう言って紳士クンに詰め寄った。
それに対して紳士クンは取り乱しながらこう答える。
「べ、別に令お姉様が思うような関係になった訳じゃないですよ?
ボクは希里お姉様にメイドとしてお仕えしているだけで・・・・・・」
するとそんな紳士クンに、希里が抱きつきながら言った。
「でももう二晩も同じ屋根の下で過ごしたんだから、
少なくとも令お姉様よりは親密な仲になりましたよ?ね~っ、乙子♪」
「え、え~っと・・・・・・」
どう答えていいのか分からず、紳士クンは言葉を詰まらせながら目を泳がせる。
するとそれを見た令はよよよっと後ずさりながら、
「そ、そんな・・・・・・」
と呟き、踵を返して
「乙子ちゃんの、バカーッ!」
と叫びながら走り去って行った。




