18 撫子の、何とも言えない表情
「乙子!」
翌日の昼休み、
紳士クンが今朝こしらえたお弁当を持って教室を出ようとすると、
そこに撫子が凄い剣幕で現れた。
「あ、お姉ちゃん。どうしたの?」
紳士クンがのんきな口調で尋ねると、撫子は紳士クンの両肩を掴んで言った。
「どうしたのじゃないわよ!
あんたどうして昨日も一昨日もうちに連絡を寄こさないのよ⁉」
「え、だって、ボクは希里お姉様の所でお世話になってるから、
別に必要ないかなって」
「必要あるに決まってるでしょ!連絡がないと心配するでしょうが!」
「う、それは、ゴメン。で、でも、心配してくれなくても大丈夫だよ?
ボクは何とかやってるから」
「嘘おっしゃい!どうせ希里に色々イジワルされてるんでしょ⁉
それで何かとコキ使われて、奴隷みたいに扱われてるんでしょ!」
「そ、そんな事ないよ。
希里お姉様は、お姉ちゃんが思っている程悪い人じゃないよ?」
「そんな訳ないでしょ!きっと陰で私の悪口とかも言ってるに決まってるわ!」
「お姉ちゃん!」
撫子の言葉をいましめるように、紳士クンは珍しく強い口調で声を上げた。
「な、何よ、急に大声出して・・・・・・」
たじろぐ撫子に、紳士クンはニッコリ微笑んでこう続けた。
「希里お姉さまはそんな人じゃないよ。ボクは大丈夫だから、ね?」
「う・・・・・・」
紳士クンのその優しくも力強い言葉に、撫子は何も言い返せずに言葉を詰まらせた。
そして紳士クンから目を逸らし、呟くように言った。
「まあ、乙子がそこまで言うんなら、別にいいけど・・・・・・」
「ありがとう。じゃあボクは、希里お姉様と一緒にお昼を食べに行くから」
紳士クンはそう言うと、撫子の脇を抜けて教室を出て行った。
一方の撫子はそんな紳士クンの後ろ姿を眺めながら、
何とも言えない表情を浮かべていた。
それはもう、何とも言えない表情だった。




