2 不穏な空気
すると撫子は途端に不機嫌な顔になって希里に言った。
「ちょっと、人の妹を気安く呼び捨てにしないでくれる?」
しかし希里は悪びれる様子もなくこう返す。
「あら、主人がメイドを呼び捨てにして何が悪いの?ごく自然な事だと思うけど?」
「あんた、乙子に何かひどい事したら、私が許さないからね」
「ひどい事だなんて人聞きが悪いわね。
私はこの子に、メイドとしてお世話をしてもらうだけよ?」
希里はそう言うと、持っていた学生鞄を紳士クンに差し出した。
「とりあえずこれ、持ってくれる?」
「あ、はい」
それを受け取る紳士クン。
するとそれを見た撫子は一層不機嫌な顔になって言った。
「ちょっと!何で乙子がそんな事までしなくちゃなんないのよ⁉」
「そんな事って、これくらいメイドとして当然の事じゃなくて?」
「ぐぬぬ・・・・・・」
希里の言葉に黙り込んだ撫子は、踵を返して校舎の方へと駆けて行った。
その後ろ姿を眺めながら、希里はさも愉快そうに言った。
「随分妹思いのお姉さんね。一人っ子の私にはうらやましいわ」
そんな希里に、紳士クンはおずおずと尋ねた。
「あの、希里お姉様は、どうしてボクをメイドに選んでくださったんですか?」
それに対して希里は素っ気なく答える。
「校舎の裏庭で、あなたの給仕カードを拾ったからよ」
「で、でもその時希里お姉様は、ボクの事を全く知らなかったんですよね?」
「そうね」
「なのに、どうして?」
「そうねぇ、強いて言うなら、運命を感じたからかしら?」
「ええ?運命?」
希里の言葉に紳士クンは目を丸くしたが、
希里はイタズラっぽい笑みを浮かべてこう言った。
「冗談よ」
「・・・・・・」
「まあとにかく、今日から四日間よろしくね、乙子」
希里はそう言うと、スタスタと校舎へ向かって歩き出した。
その後を紳士クンも慌ててついていく。
かくして紳士クンの御奉仕活動がスタートした訳だが、はてさて、どうなる事やら。




