16 彼女はショウワル?
一方それを聞いた撫子は、より一層青筋を立てて声を荒げた。
「何ですってぇっ⁉ちょっとあんた!もう一度言ってみなさいよ!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて。こんなところで怒鳴ったりしたら駄目だよぅ」
そう言いながら必死に撫子をなだめる紳士クン。
そうこうしているうちに希里の姿は見えなくなり、
撫子は大きなため息をついて紳士クンに言った。
「はあ、これで大体分かったでしょ?あいつがどんな人間なのか」
「お姉ちゃんはあの人の事が、あまり好きじゃないみたいだね」
「当たり前よ!人の心を平気で踏みにじるような女、私は大嫌いよ!」
「ま、まあ確かに、ちょっと口は悪そうな人だったけど」
「ちょっとじゃないわよ!かなりよ!物凄くよ!
あんた、今すぐ彼女を追いかけて、給仕カードを取り返して来なさい!」
「ええ?でも・・・・・・」
「でもじゃないでしょ!
このままだとあんたは、あの性悪女のメイドにならなくちゃいけないのよ⁉
おまけにあの女の家に泊まり込みなのよ⁉
一体どんな嫌がらせをされるか!」
「う、う~ん・・・・・・」
撫子の言葉に、うつむいて黙り込む紳士クン。
確かにそんな人間の家で住み込みで働くのは気が進まないが、
かといって今更他の人に変更したいとも言いにくい。
そんな事を言えば、あの木比篠先生にまた雷を落とされる事は目に見えている。
なので紳士クンは、撫子の目をまっすぐに見据えてこう言った。
「ボク、あの人にお仕えするよ」
「ええっ⁉何言ってんのよあんた⁉それ本気で言ってんの⁉」
撫子は目を大きく見開いてそう叫んだが、紳士クンはニコッと笑って言った。
「うん、本気だよ。
どうせ誰かにメイドとしてお仕えしなくちゃいけない訳だし、
あの人がボクのカードを拾ったのも、何かの縁かもしれないし」
「乙子・・・・・・」
紳士クンの言葉に、撫子はそう呟いて黙り込んだ。
(以前のこの子ならこんな前向きな事は言わなかったのに、
この学園に入学してから、少しは成長してるのかしら?)
そう思ったらさっきまでの怒りはすっかり消え失せて、
撫子は紳士クンの肩にポンと手を置いて言った。
「分かったわ。あんたがそこまで言うなら私はもう何も言わない。
あんたの思うように、精一杯頑張りなさい」
それに対して紳士クンは、
「うんっ」
と力強く頷いた。
が、正直な所、木比篠先生に怒られたくないのと、
令や太刀のメイドにはなりたくないという思いであんな事を言った紳士クンは、
心の中では不安が一杯だった。
(どうしよう、ボク、ちゃんとメイドとしてあの人にお仕えできるのかなぁ?)
紳士クンの新たな試練が、始まろうとしていた。




