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紳士クンの、割と不本意な日々Ⅱ  作者: 椎家 友妻
第一話 紳士クンの御奉仕 前編
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15 日鳥希里という生徒

 「あら、し──────乙子じゃないの。どうしたの?」

 紳士クンが二年藤組の教室にたどり着くと、このクラスの生徒である撫子が、

紳士クンの元に歩み寄って来た。

その撫子に紳士クンは尋ねた。

 「お姉ちゃん、このクラスに()(とり)希里(きり)さんっていう人、居る?」

 「日鳥、さん?」

 その名前を聞いた撫子の目元が、わずかにひきつった。

そして一転して声をひそめてこう言った。

 「確かにこのクラスに居るけど、彼女に何か用なの?」

 それに対して紳士クンは、変わらぬ口調で言った。

 「ボク、その人にメイドとしてお仕えする事になったんだよ」

 「な、何ですってぇっ⁉」

 撫子はやにわにそう叫ぶと、紳士クンの両肩を掴んで教室の外に押し出した。

そして廊下の壁際まで紳士クンを連れて行くと、ひと際声をひそめてこう続けた。

 「あんた、それ本当なの?」

 「え?う、うん、本当だよ?」

 目を丸くして答える紳士クンに、撫子は尚も続ける。

 「どうして彼女なのよ?」

 「え?どうしてって、何で?」

 「あんた、彼女がどんな人間なのか知ってるの?」

 「え、いや、知らないけど・・・・・・」

 「知らないのにどうしてカードを渡したりしたのよ⁉」

 「それが、今日の昼休みに給仕カードを無くしちゃって、

それをその日鳥さんが拾ったみたいなんだ」

 「ええ?」

 等と話していると、撫子の背後に一人の人物が現れてこう言った。

 「もしかして、あなたが(けだ)(かき)乙子(おとこ)さん?」

 「え?あ、はい」

 そう答えて紳士クンが撫子の背後に目をやると、

黒い髪を肩のあたりまでのばし、

赤くて大きなリボンを付けた女子生徒が立っていた。

ちなみに彼女は、紳士クンが昼休みに見かけたあの女子生徒だった。

その彼女はスカートのポケットから一枚のカードを取り出し、

それを紳士クンに差し出して言った。

 「これ、あなたの給仕カードよね?」

彼女の言葉通りそれは紳士クンの給仕カードで、

カードの中央に『蓋垣乙子』と確かに書き込まれていた。

なので紳士クンはコクリと頷いて答えた。

「はい、確かにそれはボクの給仕カードです」

 「そう、それじゃあ明日からよろしくね」

 彼女は素っ気なくそう言うと、踵を返してそのまま立ち去ろうとした。

するとそれを撫子が慌てて呼び止めた。

 「ちょ、ちょっと待って日鳥さん!」

 「何よ?」

 そう言って立ち止まる彼女。

ちなみに紳士クンはようやく、この素っ気も愛想もない彼女が、

例の日鳥希里だという事を理解した。

 (やっぱりこの人が、ボクの給仕カードを拾っていたんだ)

 その希里に撫子は語気を強くして言った。

「何よじゃないわよ。あなたそのカード、どうやって手に入れたの?」

 「校舎の裏庭で拾ったのよ」

 「じゃあ返してくれない?

それはこの子があなたに渡した訳じゃないんでしょう?」

 「どうして?形はどうあれ、私はその子の給仕カードを手に入れたのよ?

それならその子は私のメイドとして、私に仕えるべきなんじゃないの?」

 「そんな理屈が通る訳ないでしょ!いいからさっさと返しなさいよ!」

 「大声を上げるなんてはしたないわよ撫子さん。

それにこれは私と乙子さんの問題で、あなたには関係が無い事でしょう?」

 「関係あるわよ!乙子は私の大切な妹なんだから!」

 「あら、そうだったのね。

顔はそっくりだけど、性格があまりにも違うから分からなかったわ」

 「なっ⁉それどういう意味よ⁉」

 「ま、まあまあ、お姉ちゃん落ち着いて」

 顔に青筋を立てて声を荒げる撫子を、紳士クンはそう言ってなだめた。

するとそれをを見た希里はフッと笑い、

 「短気で怒りっぽいお姉さんとは違って、妹さんの方は人間が出来ているわね」

 と言い放ち、そのままスタスタと立ち去った。



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