12 彼女は女装趣味の男が嫌いらしい
「え、え~と・・・・・・」
今の状況がもうひとつ理解できない紳士クンは、そう呟きながら頭をかいた。
するとそんな紳士クンの元に令が歩み寄り、肩にポンと手を置いて言った。
「これから令奈と仲良くしてあげてね、乙子ちゃん♪」
それに対して紳士クンは、戸惑いながらこう返す。
「はあ、それは全然構わないんですけど、
彼女は明日もこの学園に来るんでしょうか?
さっきの様子だと、また逃げ出しそうな気がするんですけど」
「そんな事ないわ。
きっと明日こそはちゃんと乙子ちゃんのクラスに転入するわよ。
これも乙子ちゃんのおかげね。ありがとう♡」
「ええ?ボクはお礼を言われるような事は何もしてないですよ」
紳士クンが右手を横に振りながらそう言うと、
令は「そんな事ないわよ」と言い、声をひそめてこう続けた。
「ところで、令奈は私の妹なんだけど、乙子ちゃんはあの子に、
自分の正体が男だっていう事は絶対にバラしちゃダメよ?
あの子、女装趣味の男の子が大嫌いだから」
「ボ、ボクは趣味で女装してる訳じゃないですよ!
令お姉様が無理やりそう仕向けたんじゃないですか!」
「あら、そうだったかしら?でも最近はすっかりなれて、
女の子の服装じゃないと落ち着かないんじゃない?」
「そんな事ないですよ!
ボクは今でもちゃんとした男らしい格好をしたいと思っています!」
「偉いわ乙子ちゃん。中身は立派なジェントルメンなのね」
「そ、そうですか?」
「そうよ。それだけしっかりとジェントルメンとしての志があるなら、
どれだけ可愛らしい女の子の服を着ても、
乙子ちゃんは立派なジェントルメンで居られるわ♡」
「結局ボクは女装しなきゃいけないんですか⁉」
「気にしない気にしない♪それより明日から令奈の事よろしくね」
「まあそれはいいんですけど、
どうして令奈さんはこの学園に転校する事をあんなに嫌がっているんですか?
それがもうひとつ分からないんですけど」
紳士クンは真面目な顔になって尋ねた。
すると令は右手の人差指を紳士クンの唇にチョンと置いてこう言った。
「それはまだ教えられないわ。その時期が来た時にちゃんと教えてあげる♪」
「む、うぅ・・・・・・」
令に唇を押さえられた紳士クンは、それ以上何も言い返す事ができなかった。
「さて、じゃあ私は生徒会室に行くわね。遅れるとタッちゃんに怒られちゃうから」
令はそう言うと、紳士クンの唇から指を離して部屋の入口に向かって歩き出した。
そして部屋から出る時独り言のように、
「面白くなってきたわ♪」
と、上機嫌で呟いた。
一方その言葉をバッチリ聞きとってしまった紳士クンは、
額から嫌な感じの汗が噴き出した。
(令お姉様が、また何かよからぬ事を企んでる・・・・・・)
紳士クンはこの時、撫子が言っていた事が本当だったと心の底から実感した。
しかし令が今度は何をやらかそうとしているかは、
まだ謎に包まれたまま。
それだけに恐怖感は募る一方だった。
果たして令は何を企んでいるのか?
そして令奈がこの学園に転校する事を拒む理由とは?
紳士クンの新たな試練(?)が、始まろうとしていた。




