10 資料室にお姉様
放課後になった。
紳士クンは午後の世界史の授業で使った資料を返す為、
再び資料室に向かっていた。
そして廊下を歩きながら、昼休みに会った令奈の事をずっと考えていた。
(まさかあの子が令お姉様の妹さんだったなんて。
前に弟さんが居るっていうのは聞いてたけど、妹さんも居たんだなぁ。
でも、どうしてこの学園に転校するのがそんなに嫌なんだろう?)
等と考えているうちに、紳士クンは資料室の前にたどり着いた。そして、
(あの子、まだここに居るかな?)
と思いながらドアノブに手をかけようとした、その時だった。
「離せバカ姉貴!」
という、何やら穏やかではない様子の声が、部屋の中から聞こえた。
「な、何だ?」
紳士クンは思わず声を上げ、慌てて資料室のドアを開け放った。
すると部屋の中で、令が令奈の両腕を掴み、壁に抑えつけていた。
「れ、令お姉様⁉どうしてここに⁉」
紳士クンが驚きの声を上げると、令は紳士クンの方に振り向き、
不敵な笑みを浮かべて言った。
「ひどいじゃないの乙子ちゃん。この私に嘘をつくなんて」
「いや、あの、これは、その・・・・・・」
言い逃れる術のない紳士クンは、あたふたしながら言葉を詰まらせた。
すると令奈が令の両手を強引に振り払って声を荒げた。
「オレがかくまってくれって頼んだんだ!その子は何も悪くねぇよ!」
「あら、あなたが他人をかばうなんて珍しいわね。もしかしてもう仲良くなったの?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
からかうように言う令に、令奈はぶっきらぼうに返す。
「え、え~と・・・・・・」
どういうリアクションをすればいいのか分からない紳士クンは、
その場に突っ立ったまま頭をポリポリかいた。
そんな紳士クンに、令はニコニコしながら言った。
「もう名前は知ってるかもしれないけど、改めて紹介するわね。
この子は私の妹の令奈ちゃん。
今日からこの学園に転入するはずだったんだけど、
朝教室に向かう途中に逃げ出しちゃったのよねぇ。一体どうしてかしら?」
そう言ってさも愉快そうに令奈を見る令。
すると令奈は怒りに満ちた表情で令を睨みつけながら言った。
「そんな事、お前が一番よく分かってるんじゃねぇか?」
しかし令は素知らぬ顔でこう返す。
「さあ?何の事だかさっぱり分からないわねぇ」
「てめぇっ!」
令奈は令の胸ぐらをガシッと掴んで声を荒げた。
しかし令は悪びれる様子もなくこう返す。
「よかったら教えてもらえないかしら?乙子ちゃんだって知りたいだろうし」
「うっ・・・・・・」
令のその言葉に、令奈は言葉を詰まらせながらうつむいた。
すると令はニンマリ微笑んでこう続ける。
「自分の口元をハンカチで優しく拭いてくれた愛しの女の子に、
あの事(、、、)は言いにくいわよねぇ」




