8 乙子ちゃんのハンパない美少女力
「ど、どうしたのそれ⁉口から血が出てるよ⁉」
思わず声を上げる紳士クン。するとそれに気づいた彼女は、
「ああ、逃げてる途中に転んだ拍子に切ったんだな」
と言いながら、右腕の袖でその血をぬぐおうとした。
「だ、駄目だよそんな所で拭いちゃ!制服が汚れちゃうよ⁉」
慌ててその腕を掴んで止める紳士クン。
すると彼女は不服そうな顔で言った。
「いいじゃねぇかこのくらい。どうせオレはこの学園に通う気はねぇんだから」
(何だかこの子、喋り方も行動も男の子みたいだなぁ)
そう思いながら紳士クンは、スカートのポケットからハンカチを取り出した。
そしてそれを彼女の口元に近づけながら言った。
「とにかく、制服を汚すのはよくないよ」
「な、何する気だよ?」
「これで拭いてあげるから、ちょっとじっとしてて」
たじろぐ彼女に紳士クンはそう言って、
そっとハンカチを彼女の口元にあてた。
すると彼女は「ひぅっ」と小さく声を上げ、
キュッと唇を結んで目をつむった。
そんな彼女の口元を、紳士クンは優しくていねいにぬぐった。
そして一通り綺麗になったところで、
「これでよし」
と言ってハンカチを口元から離した。
すると彼女は、血で汚れた紳士クンのハンカチを眺めながら言った。
「わ、悪ぃな、そのハンカチ、汚しちまって・・・・・・」
よほど申し訳ないと思ったのか、
彼女はすっかりしおらしい態度になっていた。
そんな彼女に、紳士クンはニッコリ微笑んで言った。
「気にしなくていいよ。ハンカチっていうのは汚れる為にあるんだから」
するとその時、午後の始まりを知らせる教会の鐘が鳴り、
それを聞いた紳士クンは慌てた声を上げた。




