7 転校生
紳士クンはそう言いながら、令の後ろ姿に手を振った。
そして令の姿が見えなくなった所で、
おそるおそる資料室のドアを開けて中を覗き込んだ。
「あの~、もう大丈夫ですよ?」
紳士クンがそう声をかけると、
資料室の棚の陰に隠れていたさっきの女子生徒が現れ、
紳士クンの方に歩み寄りながら言った。
「いきなり悪かったな。あんたのおかげで助かったよ」
それに対して紳士クンは、資料室のドアを閉めながらこう返す。
「それは全然構わないんですけど、
あなたはどうしてさっきの人に追いかけられていたんですか?」
すると彼女は部屋のまん中あたりに来た所で立ち止まり、
険しい表情になって言った。
「あの女は、嫌がるオレを無理やりこの学校に転校させやがったんだ」
「転校?」
その言葉にピンときた紳士クンは、続けてこう尋ねた。
「もしかして、君が今日この学園に転校するはずだった子なの?」
それに対して彼女は、さも不愉快そうな口調でこう答えた。
「ああそうだよ。
オレは今日付けでこの学園の一年の菫組に転校する事になっていた。
でもそれがどうしても嫌で、今朝教室に行く途中に隙を見て逃げ出したんだ。
だけどこの学園は周囲の警備がやたら厳重で、
外に逃げ出す事もできねぇから、こうして校舎の中に隠れてたんだ。
そしたらさっきあの女に見つかって、必死に逃げてきた訳だ。
マッタク、嫌になっちまうぜ」
彼女はそこまで言うと、腹立たしそうに頭をボリボリかいた。
そんな彼女に紳士クンはおずおずと尋ねる。
「あ、あの、君はさっき、
令お姉様に無理やりここに転校させられたって言ったよね?
君と令お姉様って、一体どういう関係なの?」
「それは・・・・・・」
と、彼女は何かを言いかけて口をつぐんだ。
紳士クンはその次の言葉を促すように再び問いかける。
「それは、何なの?」
すると彼女はぶっきらぼうな口調で言った。
「そ、そんな事どうだっていいじゃねぇか!
初対面のあんたに話す義理なんかねぇよ!」
「う、ま、まあ、言いたくないなら無理には聞かないけど・・・・・・」
彼女の迫力に気押された紳士クンは、たじろぎながらそう言った。
すると彼女はそんな紳士クンにズズイッと詰め寄ってこう続ける。
「ところであんた、オレをここで見た事は誰にも言わないでくれよ⁉
オレ、どうしてもこの学園には転校したくないんだ!この通り!」
そう言って彼女は紳士クンに両手を合わせた。
一方そう言われた紳士クンは、
「う、う~ん・・・・・・」
とうなりながら腕組みをした。
(この子は本気でこの学園に転校するのが嫌みたいだけど、
だからってこのまま内緒にしててもいいのかな?)
と頭を悩ませていると、彼女の口の端から一筋の血が流れ出した。




