2 あの時の笑顔と同じ
その翌日の朝、当物語の主人公である蓋垣紳士クンは、
いつものように姉の撫子とともにエシオニア学園にやって来た。
そして校舎へ続く中庭を歩く途中、
昨日の令の様子を撫子から聞いた紳士クンは、無邪気な笑みを浮かべて言った。
「へぇ~、そうなんだ。何か良い事でもあったのかな?」
すると撫子はため息をついてシミジミとこう返す。
「違うわよ。あの人がああいう感じの時って、ロクな事を考えてないのよ」
「そ、そうかな?
そんなにいつもいつも悪だくみばっかりしてる訳じゃないと思うけど?」
「いーや、あれはこの前の入学式の時と同じような笑顔だったわ」
「え、そ、そうなの?」
撫子の言葉を聞き、顔がこわばる紳士クン。
ちなみにこの前の入学式の時、紳士クンは令の悪だくみにより、
男の身でありながらこの学園の女子部に
通わざるを得ないという状況に陥れられてしまった。
その時に浮かべていた令の笑顔を今でも鮮明に覚えている紳士クンは、
わずかな希望を込めてこう言った。
「で、でも、今回はそうじゃないかもしれないじゃない?
きっと何か良い事があったんだよ」
しかし撫子は神妙な顔つきで、アゴに右手を当てながら言った。
「もしかして令お姉様は乙子を誘拐して、
一生自分専用のメイドとして働かせようと企んでいるのかも・・・・・」
「な、生々しい事言わないでよ!」
「とにかく気をつけなさい。
あんたは令お姉様のお気に入りなんだから、
いつ何どき襲いかかって来るか分からないわよ?」
「そ、そんな、殺し屋じゃないんだから・・・・・・」
「いーや、あの人相手ならそれくらい用心しといたほうがいいわ。
あの人相手じゃ、私もあんたを守りきれないからね」
「わ、分かったよ。できるだけ気をつけるよ」
そう言ってため息をつく紳士クン。
(何かまた、大変な事が起きるのかなぁ?)
この学園に入学してからこっち、
様々なトラブルに巻き込まれている紳士クンは、そう思わずにはいられなかった。
(とりあえず、暫くは極力令お姉様に会わないようにしよう)
そう心に決めた紳士クンは、気を持ち直して校舎へと向かった。




