34 投げ飛ばされたのに
という訳で、静香と撫子、
そして付き添いの為に撫子に呼び出された紳士クンは、
旧校舎の前にやって来た。
するとそこに、ある一人の人物が立っていた。
その人物とは、静香の双子の兄である色雄だった。
それを見た撫子は、傍らの静香に尋ねる。
「まさかあいつのシスコン、まだ治ってないの?」
すると静香は首を横に振って答えた。
「いえ、あの日以来そういう事はなくなったんですが、
まあとにかく、兄の話を聞いてあげてもらえませんか?」
「私が聞くの?」
「はい、そうです」
「まあ、いいけど・・・・・・」
撫子が頭をかきながらそう言うと、
色雄がスタスタと撫子の前まで歩み寄って来て、立ち止まってこう言った。
「実は君に、言っておきたい事がある」
「何よ?この前投げ飛ばされた仕返しでもしようって言うの?」
トゲのある口調で撫子は言った。
しかし、それに対する色雄の答えはこうだった。
「違う!そうじゃなくて、俺は、お前を、好きになっちまったんだ!」
「へ?」
「え?」
それを聞いた撫子と紳士クンは同時に目を丸くして頓狂な声を上げ、
その直後、撫子が絶叫した。
「はあああっ⁉何言い出すのよあんたは⁉
そもそも私はあの時、あんたを殴ったり怒鳴ったり投げ飛ばしたりしたのよ⁉
そんな相手を何で好きになるのよ⁉」
すると色雄は両拳をグッと握ってこう言った。
「だからこそだ!君がこの前俺を殴ったり怒鳴ったりしてくれて、
俺のハートがキュンとときめいたんだ!」
それを聞いた撫子は、顔をひきつらせて静香に言った。
「こいつってシスコンなだけじゃなくて、真正のドMなの?」
それに対して静香はこう答える。
「いえ、多分違うと思うんですけど、
ただ、兄は今まで同世代の女子にチヤホヤされてばかりだったので、
初めて自分の事を怒ってくれた女性である撫子さんに、
運命の出会いを感じたんだそうです」
「どういう神経してんのよ・・・・・・」
撫子は心底げんなりした表情で呟いた。
すると色雄はズズイッと撫子に詰め寄ってこう言った。
「俺は至って真剣だ!だから俺と、付き合ってくれないか⁉」
「嫌よ!絶対嫌!」
撫子は間髪いれずに答えた。
しかし色雄は怯む事なく撫子に詰め寄った。
「そうやって俺の告白をつっぱねる所も素敵だ!益々好きになった!」
「い、いやぁっ!助けてぇっ!」
流石の撫子も色雄の言葉に怖じ気づき、踵を返して一目散に逃げ出した。
すると色雄は
「待ってくれ!俺は絶対諦めないぞぉっ!」
と叫び、撫子の後を追った。
逃げる撫子。
追う色雄。
その様子はまるで、仲むつまじくじゃれあう恋人同士のよう・・・・・・
には到底見えなかった。
「な、何だか大変な事になっちゃいましたね・・・・・・」
そんな二人の様子を眺めながら、紳士クンは言った。
それに対して静香。
「はい。ですが、兄が自分から特定の女性を好きになるのは初めてだと思います。
やはり撫子さんは、それだけ魅力的な女性だという事ですね」
「あ、あはは・・・・・・」
静香の言葉に、紳士クンは複雑な笑みを浮かべるしかなかった。
まあ何はともあれ、今回の事でまた新たな友情が生まれ、
そして新たな恋心も生まれた。
こうして今回のお話は、大団円の元に幕を閉じたのだった。
(ほ、本当に、これでよかったのかなぁ?)
「いやーっ!」




