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外れスキル『復元』を理由に追放された少年、偶然に見つけた自律人形を再稼働する。~【アンドロイド】だとかは知らないけれど、ヒドイことした人たちは無視して、新しいパートナーと共に楽しく暮らします~

作者: あざね

短編にしてみました。

面白かった、続きが気になる、という方は是非感想やブックマークなど。

応援よろしくお願いいたします(*‘ω‘ *)








「ケイト。お前、明日から来なくていいよ」

「それってつまり、追放ってこと……?」



 リーダーの言葉に、ボクはそう首を傾げた。

 このやり取りには既視感がある。何故ならボクはもう、幾度となくパーティーをクビになってきたのだから。今回も同じ、ということだ。

 こちらの質問に、リーダーは小さく頷くとため息をついた。



「分かってるなら、自分からやめる、って考えはないのかよ。この役立たず」



 そして、あからさまに嫌悪感をむき出しにして言う。



「いい加減、ウンザリなんだよ。俺たちには、ダンジョンで役に立つスキルが必要なんだ。それなのに、本当に『復元』しかできないって何だよ!」

「え、でもボク最初に言いましたよ。物を元通りにするしかできないって……」

「うるせぇ! 口答えすんな!!」

「わっぷ……!?」



 こちらが異を唱えると、リーダーはグラスに入ったエールをボクの顔に。

 思い切り目に入ったために激痛に襲われた。



「分かったら、さっさと出てけよ」

「うぅ……。分かったよ」



 ボクが背を向けると、最後の最後にこんな言葉が背中に。




「あんな奴、どこに行っても使えないぜ」――と。




 その言葉は、ボクの心に深く突き刺さるのだった。









「それにしたって、最初から戦闘向きじゃないって言ってたのになぁ」



 夜の街を歩きながら、ボクは大きくため息をつく。

 今回のパーティーに入る際には、自分が物を直す『復元』しか使えない、というのは伝えていたはず。それを無理矢理に前線へ送り出したのは、リーダーだった。そして失敗すれば、決まってあのような罵詈雑言を浴びせてくるのだ。


 適材適所、という言葉があるのだから。

 そう思ってまた、一つため息をつこうとした時だった。



「…………ん? なんだろ、アレ」



 ふと、使い物にならなくなったゴミの山積する場所に目が行く。

 その中から、腕が出ているように思ったんだけど……。



「これは、人形の腕……?」



 ボクはそれを掘り出してみる。

 そして、その全貌が明らかになった時に息を呑んだ。




「これは、女の子じゃないか……!?」




 何故なら、それは本当の人間と見紛うほど精巧な人形だったのだから。

 今はぐったりと頭を垂れているが……。



「これは、ここに置いていけないよな……」



 さすがに、人間そっくりなこの人形を置き去りにするのは気が引けた。

 だからボクは、それを担ぎ上げて持ち帰ることとする。


 『復元』して、持ち主を探すのも良いだろう。

 そんなことを気楽に考えながら――。








 だけど、物事は想定の斜め上を行く。



「え、いまなんて言ったの?」

「いえ。ですから、貴方が私の新しいマスターですか? ――と」

「……………………」




 翌日のこと。

 家の工房で人形の『復元』を試みた。

 すると――。




「いや、なんでさ……?」




 ――喋ったのである。


 人形であったはずの少女は、自ら口を開き言葉を発した。

 そして、あろうことかボクをマスターだと呼ぶ。



 柔らかな黒髪。

 前髪は少しだけ長くて、金の瞳が片方隠れていた。

 身にまとっているのは簡素なワンピース。肌は全体的に煤けているけれど、洗えば綺麗な状態になるだろうと思われた。


 端的に言えば、かなり美しい女の子。

 そんな彼女にマスター――主人と呼ばれて、ボクは困惑していた。




「いかがなさいましたか?」

「え、いや……」




 自律人形は、小首を傾げて抑揚のない声で言う。

 それを受けてボクは言い淀みながら、こう思うのだった。



 どうして、こうなった……と。







「マスター。この薪は、こちらに置いておけばよろしいですか?」

「うん、ありがとう。ドリィ」

「いえ。感謝は結構です」



 ――数日が経過して。

 ボクの生活には、以前の日常が戻りつつあった。

 ただ例外を上げるとすれば、自律人形の少女――ドリィの姿があること。ボロボロのワンピースに身にまとう彼女は、淡々とボクの作業を手伝っていた。


 美しい少女であるドリィがいると、妙にドキドキする。

 だけど、間違いを犯してはならない。


 記憶喪失の女の子相手に、手を出すなんて。

 そんなの男として最低だった。



「それにしても、ドリィの言ってた言葉の意味が分からないな……」



 そんなことを考えながら。

 ボクはふと、最初に彼女と話した時のことを思い出すのだった。








「【アンドロイド】…………?」

「はい。私の型番号はDLY=32型です」

「いや、ごめん。型番号の前に、アンドロイドが理解できない」

「…………ふむ」




 困惑したこちらの様子に、少女は少し考え込む。

 そして、小さくこう言うのだった。




「文明レベルが後退している……? いいや。視覚情報から察するに、これはあくまで正当な成長を遂げた上での文明レベル。つまり、私は――」

「………………?」



 まるで、彼女の言葉が理解できない。

 言語は同じはずなのに、まるでなにを言っているか分からなかった。

 だが、今のところ問題はそこではない。ボクは咳払いを一つ、こう訊ねた。



「ところで、キミの名前は?」

「名前、ですか?」

「うん」



 そう、名前だ。

 ずっと互いの名前も分からないのでは、話が進まない。

 そう思って訊ねるのだが、彼女はしばし考えてこう告げるのだった。



「申し訳ございません。名称をロストしたようです」

「ロスト……? それって、忘れたってこと?」

「簡単に言えば、そうなりますね」



 あまりに感情なく答える少女。

 しかしボクはそれ以上に、彼女の境遇に驚いた。

 名前が思い出せないってことは、記憶喪失、ということだからだ。これはきっと、ただ事ではないのだろう。


 そう思ってボクは、しばし考える。

 ひとまず、仮の名前でも良いから付けた方が良い。

 その思考の末に、ボクは首を傾げる彼女にこう提案していた。



「それじゃあ、キミの名前は――」




 優しく、その小さな手を取って。




「ドリィ! キミはこれから、ドリィだ!」――と。








 そうして数日。

 彼女――ドリィはボクの手伝いをしながら、普通に生活している。

 主にボクの方が遠慮している気はするが、思いのほか、これといった苦労はなかった。それでも、気になるところは気になるのであって……。




「ねぇ、ドリィ……?」

「いかがなさいましたか。マスター」

「その服だけど、新しいの欲しくならない?」



 ボクは彼女の着ているボロボロのワンピースを見て、苦笑い。

 しかし対するドリィは、視線こそ落とすが――。



「いえ。アンドロイドに、そもそも服は不要ですから」

「そ、そうなんだ……」



 あっさり、そう断言するのだった。

 それを言われては、ボクも何も言い返せない。だけど――。



「……いいや、やっぱり駄目だよ!」



 すぐに、大きく首を左右に振った。

 そして彼女のもとに歩み寄り、その手を取って言う。




「女の子が、そんな格好してたらダメだ! 買いに行こう!!」

「……………………?」




 それでも、キョトンとするドリィ。

 ボクは反応の薄い彼女の手を引いて、真っすぐに街へと向かうのだった。



 




 ボクの住む街――イシュタリアは、王都から西にしばらく歩いた場所にある。ガリア王国の中心に近いため、比較的発展しており、道には人通りも多い。

 その中でも目に付くのは、やはり冒険者の数だろう。

 イシュタリアは、王都に次いで冒険者が多く居住していた。



「データにない服装、装備ばかりですね……」

「うーん。やっぱり、簡単に記憶は戻らないか」



 そんな中を歩いて。

 ドリィは周囲を観察しながらそう言った。

 データにない、という言葉の意味が分からなかったけれど。とにもかくにも、記憶に引っかかる部分はない、ということだった。


 それに、そもそもな話。

 彼女は人形――とは違う、別の存在だ。

 少なくとも人間ではないはず。しかし、人形とも違う。



「………………」



 握ったままの手からは、人間らしいぬくもりを感じた。

 意思を持つ人形だなんて聞いたことがない。

 王都の方では『自律人形』というものを研究しているらしいが。だとすれば、ドリィは王都からやってきたというのだろうか……。



「マスター。いかがなさいました?」

「え、ううん。なんでもない!」



 考え込んでいると、それがドリィに伝わったらしい。

 彼女はどこか疑問符を感じる声で、ボクにそう声をかけてきた。



「そんなことより、目的地に到着したよ!」



 でも、考えるのはまた今度で良い。

 ボクは目の前に現れた店を示しながら、少女に笑いかけた。



「ここは……?」

「ブティックだよ。ここで、キミの服を新調するんだ」

「私の、服ですか……」



 そう伝えると、ドリィはしばし顎に手を当ててから。



「マスターの命令とあれば、仕方ありませんね」



 どこか、自分を納得させるようにそう言うのだった。

 かくしてボクとドリィは、ブティックに入店。しかし、その様子を見ている人物がいたことに――。



「あん? アレは、あの役立たず……」



 その時のボクは、気付きもしなかった。







「すみません。この子に、いくつか服を仕立ててあげてください」

「かしこまりました。ご予算は――」



 店員さんに声をかけて、予算を伝える。

 そうすると店員の女性はドリィを連れて、奥へと消えていった。

 ここまできたら、ボクのやることは終わりだろう。そう思って休憩用の椅子に、ゆっくりと腰かけた。そして、改めて考える。




「それにしても【アンドロイド】って、なんだろう?」――と。




 聞いたこともない言葉だった。

 おそらく、人形か何かの名前なのだろうけど。

 持っているスキルが『復元』であるため、小銭稼ぎで人形を直す仕事を請け負うことはあった。それでも、そんな名称は知らない。


 そうなると、やはり王都の【自律人形】研究が肝になるのだけど……。



「とりあえず、今度ドリィを連れて王都に行ってみようかな……」



 と、そんな結論に至った。

 その時である。




「おう、やっぱり役立たずじゃねぇかよ」

「え……?」




 ボーっとしているボクに、そんな風に声をかける人物があったのは。

 声のした方を見る。すると、そこにいたのは――。



「なんだ? しょうもない『復元』でブティックに就職か?」




 先日、ボクを追放したリーダー。

 アンディ・ローバーの姿だった……。



 






「マスターは、いったいどういうつもりなのか。理解しかねます」




 そう言いながら、ドリィは店員から渡された服に袖を通していた。

 彼女は自身を【アンドロイド】だと呼称しているが、それはあくまで僅かに残った記憶データ、そして自身の身体の構造を鑑みての結論。しかし、それはおおよそ正しいように思われた。この身体は人体に限りなく近いが、大部分が別物。



「すなわち、私は所詮人間ではない。それなのに……」



 どうにも、ここ数日のケイトの様子はおかしかった。

 女性慣れしていないのだろうか、顔を合わせると頬を赤らめる。さらには今回のように、ドリィをブティックに連れてきた。

 それはアンドロイドである彼女にとって、疑問しか抱けないこと。


 少なくとも、自分は『物』である。



「ん、なにやら騒がしいですね」



 そこまで考えた時だ。

 更衣室の外――ケイトがいるはずの、出入り口付近から怒鳴り声が聞こえたのは。即座にドリィは外に飛び出し、そして主人である少年の危機を確認した。


 一人の屈強な男が、ケイトの胸倉を掴んでいる。

 彼女はその男に向かって、こう警告するのだった。



「マスターから手を離しなさい。さもなければ、撃ちます」――と。







「おい、ケイト。誰にそんな口きいてんだ?」

「ぐ……!」



 アンディはボクの発言が気に食わなかったらしい。

 でも、こちらの主張は事実だ。



「俺のパーティーが上手くいかないのは、お前みたいな愚図ばかりだからだ。そうでなきゃ、俺のような実力者がBランクに甘んじるなんて、あり得ねぇ!」

「それが、間違いだって言ってるんです……!」

「うるせぇ!!」



 そう言って、彼はボクの胸倉を掴んだ。


 どうやらアンディは、ボクが離脱した後も同じ間違いを繰り返したらしい。後衛向きな人材を前衛に配置し、挙句の果てにボロ雑巾のように捨てた。

 そしてまた、手当たり次第に新人冒険者を漁っている。


 そんな行い、止めなければならない。

 これ以上はもう、アンディの横暴による被害者を増やすわけにはいかない。



「ぐっ……!」

「どうした。さっきまでの威勢はどこ行ったんだ?」



 だけど、ボクには力がない。

 戦うための力を持たないボクは、間違いを指摘するしかできない。だがこの世界において、それは決して正解だとは限らなかった。

 暴力でねじ伏せられてしまえば、正しくとも間違いとなる。



「いいか、分かったな? これ以上は俺に逆らうな――」



 そして、アンディが拳を振りかぶった瞬間だった。




「マスターから手を離しなさい。さもなければ、撃ちます」




 ドリィの淡々とした声が、聞こえたのは。

 驚いて見ると、そこには女の子らしい服装を身にまとった彼女が――。



「え、なにその手……?」



 右手の五指を外し、アンディに向けていた。

 彼女の指があったそこには、謎の空洞が開いている。たしかに、彼女は人間ではなく人形だから、そのような構造になっていても不思議ではない。

 でも、それの意味が分からなかった。



「ああん? なんだ、コイツは……」



 そして、それはアンディも同じだったらしい。

 ドリィを睨むと、その出で立ちだけを見て鼻で笑った。



「なんだよ、そこの女。なにかするなら、やってみろや」



 続けて、そう挑発する。

 するとドリィは、小さくため息をついてから――。



「救いようのない、馬鹿ですね」



 そう言った直後――チュイン!



「あ……?」



 なにかが、アンディの頬を掠めた。

 そして、スーッと傷ができて血が伝う。



「次は、その額にお見舞いしますよ?」



 どうやら、ドリィが目にも止まらぬ速度の魔法を放ったらしい。

 それを理解して、アンディは青ざめた。



「は、ははははは。なんだよ、俺を殺すってのか……?」

「えぇ、そうです。マスターに害を為すなら」

「…………!?」



 対して、少女は表情を変えずに答える。

 本気だった。微塵も迷いがない。


 それを察知したのだろう。

 アンディはすぐに、ボクから手を離してこう叫んだ。




「だ、誰か助けてくれえええええええ!? 殺されるぅぅぅぅぅぅぅう!?」




 そうして、ブティックを飛び出していった。

 唖然として彼を見送るボク。


 そんなこちらに、ドリィは歩み寄って手を差し伸べた。




「大丈夫ですか? マスター」




 何故だろう。

 その時、彼女がほんの少しだけ笑っているように見えた……。



 

「これって、いったいどういうことなの……?」





 ボクは改めて、そう思うのだった。



 


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[良い点] 短編投稿お疲れ様です(◍•ᴗ•◍) [一言] 「物」と「人」の致命的すれ違い……イイネ! 連載しても構いませんのよ?てかしよう
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