外れスキル『復元』を理由に追放された少年、偶然に見つけた自律人形を再稼働する。~【アンドロイド】だとかは知らないけれど、ヒドイことした人たちは無視して、新しいパートナーと共に楽しく暮らします~
短編にしてみました。
面白かった、続きが気になる、という方は是非感想やブックマークなど。
応援よろしくお願いいたします(*‘ω‘ *)
「ケイト。お前、明日から来なくていいよ」
「それってつまり、追放ってこと……?」
リーダーの言葉に、ボクはそう首を傾げた。
このやり取りには既視感がある。何故ならボクはもう、幾度となくパーティーをクビになってきたのだから。今回も同じ、ということだ。
こちらの質問に、リーダーは小さく頷くとため息をついた。
「分かってるなら、自分からやめる、って考えはないのかよ。この役立たず」
そして、あからさまに嫌悪感をむき出しにして言う。
「いい加減、ウンザリなんだよ。俺たちには、ダンジョンで役に立つスキルが必要なんだ。それなのに、本当に『復元』しかできないって何だよ!」
「え、でもボク最初に言いましたよ。物を元通りにするしかできないって……」
「うるせぇ! 口答えすんな!!」
「わっぷ……!?」
こちらが異を唱えると、リーダーはグラスに入ったエールをボクの顔に。
思い切り目に入ったために激痛に襲われた。
「分かったら、さっさと出てけよ」
「うぅ……。分かったよ」
ボクが背を向けると、最後の最後にこんな言葉が背中に。
「あんな奴、どこに行っても使えないぜ」――と。
その言葉は、ボクの心に深く突き刺さるのだった。
◆
「それにしたって、最初から戦闘向きじゃないって言ってたのになぁ」
夜の街を歩きながら、ボクは大きくため息をつく。
今回のパーティーに入る際には、自分が物を直す『復元』しか使えない、というのは伝えていたはず。それを無理矢理に前線へ送り出したのは、リーダーだった。そして失敗すれば、決まってあのような罵詈雑言を浴びせてくるのだ。
適材適所、という言葉があるのだから。
そう思ってまた、一つため息をつこうとした時だった。
「…………ん? なんだろ、アレ」
ふと、使い物にならなくなったゴミの山積する場所に目が行く。
その中から、腕が出ているように思ったんだけど……。
「これは、人形の腕……?」
ボクはそれを掘り出してみる。
そして、その全貌が明らかになった時に息を呑んだ。
「これは、女の子じゃないか……!?」
何故なら、それは本当の人間と見紛うほど精巧な人形だったのだから。
今はぐったりと頭を垂れているが……。
「これは、ここに置いていけないよな……」
さすがに、人間そっくりなこの人形を置き去りにするのは気が引けた。
だからボクは、それを担ぎ上げて持ち帰ることとする。
『復元』して、持ち主を探すのも良いだろう。
そんなことを気楽に考えながら――。
◆
だけど、物事は想定の斜め上を行く。
「え、いまなんて言ったの?」
「いえ。ですから、貴方が私の新しいマスターですか? ――と」
「……………………」
翌日のこと。
家の工房で人形の『復元』を試みた。
すると――。
「いや、なんでさ……?」
――喋ったのである。
人形であったはずの少女は、自ら口を開き言葉を発した。
そして、あろうことかボクをマスターだと呼ぶ。
柔らかな黒髪。
前髪は少しだけ長くて、金の瞳が片方隠れていた。
身にまとっているのは簡素なワンピース。肌は全体的に煤けているけれど、洗えば綺麗な状態になるだろうと思われた。
端的に言えば、かなり美しい女の子。
そんな彼女にマスター――主人と呼ばれて、ボクは困惑していた。
「いかがなさいましたか?」
「え、いや……」
自律人形は、小首を傾げて抑揚のない声で言う。
それを受けてボクは言い淀みながら、こう思うのだった。
どうして、こうなった……と。
◆
「マスター。この薪は、こちらに置いておけばよろしいですか?」
「うん、ありがとう。ドリィ」
「いえ。感謝は結構です」
――数日が経過して。
ボクの生活には、以前の日常が戻りつつあった。
ただ例外を上げるとすれば、自律人形の少女――ドリィの姿があること。ボロボロのワンピースに身にまとう彼女は、淡々とボクの作業を手伝っていた。
美しい少女であるドリィがいると、妙にドキドキする。
だけど、間違いを犯してはならない。
記憶喪失の女の子相手に、手を出すなんて。
そんなの男として最低だった。
「それにしても、ドリィの言ってた言葉の意味が分からないな……」
そんなことを考えながら。
ボクはふと、最初に彼女と話した時のことを思い出すのだった。
◆
「【アンドロイド】…………?」
「はい。私の型番号はDLY=32型です」
「いや、ごめん。型番号の前に、アンドロイドが理解できない」
「…………ふむ」
困惑したこちらの様子に、少女は少し考え込む。
そして、小さくこう言うのだった。
「文明レベルが後退している……? いいや。視覚情報から察するに、これはあくまで正当な成長を遂げた上での文明レベル。つまり、私は――」
「………………?」
まるで、彼女の言葉が理解できない。
言語は同じはずなのに、まるでなにを言っているか分からなかった。
だが、今のところ問題はそこではない。ボクは咳払いを一つ、こう訊ねた。
「ところで、キミの名前は?」
「名前、ですか?」
「うん」
そう、名前だ。
ずっと互いの名前も分からないのでは、話が進まない。
そう思って訊ねるのだが、彼女はしばし考えてこう告げるのだった。
「申し訳ございません。名称をロストしたようです」
「ロスト……? それって、忘れたってこと?」
「簡単に言えば、そうなりますね」
あまりに感情なく答える少女。
しかしボクはそれ以上に、彼女の境遇に驚いた。
名前が思い出せないってことは、記憶喪失、ということだからだ。これはきっと、ただ事ではないのだろう。
そう思ってボクは、しばし考える。
ひとまず、仮の名前でも良いから付けた方が良い。
その思考の末に、ボクは首を傾げる彼女にこう提案していた。
「それじゃあ、キミの名前は――」
優しく、その小さな手を取って。
「ドリィ! キミはこれから、ドリィだ!」――と。
◆
そうして数日。
彼女――ドリィはボクの手伝いをしながら、普通に生活している。
主にボクの方が遠慮している気はするが、思いのほか、これといった苦労はなかった。それでも、気になるところは気になるのであって……。
「ねぇ、ドリィ……?」
「いかがなさいましたか。マスター」
「その服だけど、新しいの欲しくならない?」
ボクは彼女の着ているボロボロのワンピースを見て、苦笑い。
しかし対するドリィは、視線こそ落とすが――。
「いえ。アンドロイドに、そもそも服は不要ですから」
「そ、そうなんだ……」
あっさり、そう断言するのだった。
それを言われては、ボクも何も言い返せない。だけど――。
「……いいや、やっぱり駄目だよ!」
すぐに、大きく首を左右に振った。
そして彼女のもとに歩み寄り、その手を取って言う。
「女の子が、そんな格好してたらダメだ! 買いに行こう!!」
「……………………?」
それでも、キョトンとするドリィ。
ボクは反応の薄い彼女の手を引いて、真っすぐに街へと向かうのだった。
◆
ボクの住む街――イシュタリアは、王都から西にしばらく歩いた場所にある。ガリア王国の中心に近いため、比較的発展しており、道には人通りも多い。
その中でも目に付くのは、やはり冒険者の数だろう。
イシュタリアは、王都に次いで冒険者が多く居住していた。
「データにない服装、装備ばかりですね……」
「うーん。やっぱり、簡単に記憶は戻らないか」
そんな中を歩いて。
ドリィは周囲を観察しながらそう言った。
データにない、という言葉の意味が分からなかったけれど。とにもかくにも、記憶に引っかかる部分はない、ということだった。
それに、そもそもな話。
彼女は人形――とは違う、別の存在だ。
少なくとも人間ではないはず。しかし、人形とも違う。
「………………」
握ったままの手からは、人間らしいぬくもりを感じた。
意思を持つ人形だなんて聞いたことがない。
王都の方では『自律人形』というものを研究しているらしいが。だとすれば、ドリィは王都からやってきたというのだろうか……。
「マスター。いかがなさいました?」
「え、ううん。なんでもない!」
考え込んでいると、それがドリィに伝わったらしい。
彼女はどこか疑問符を感じる声で、ボクにそう声をかけてきた。
「そんなことより、目的地に到着したよ!」
でも、考えるのはまた今度で良い。
ボクは目の前に現れた店を示しながら、少女に笑いかけた。
「ここは……?」
「ブティックだよ。ここで、キミの服を新調するんだ」
「私の、服ですか……」
そう伝えると、ドリィはしばし顎に手を当ててから。
「マスターの命令とあれば、仕方ありませんね」
どこか、自分を納得させるようにそう言うのだった。
かくしてボクとドリィは、ブティックに入店。しかし、その様子を見ている人物がいたことに――。
「あん? アレは、あの役立たず……」
その時のボクは、気付きもしなかった。
◆
「すみません。この子に、いくつか服を仕立ててあげてください」
「かしこまりました。ご予算は――」
店員さんに声をかけて、予算を伝える。
そうすると店員の女性はドリィを連れて、奥へと消えていった。
ここまできたら、ボクのやることは終わりだろう。そう思って休憩用の椅子に、ゆっくりと腰かけた。そして、改めて考える。
「それにしても【アンドロイド】って、なんだろう?」――と。
聞いたこともない言葉だった。
おそらく、人形か何かの名前なのだろうけど。
持っているスキルが『復元』であるため、小銭稼ぎで人形を直す仕事を請け負うことはあった。それでも、そんな名称は知らない。
そうなると、やはり王都の【自律人形】研究が肝になるのだけど……。
「とりあえず、今度ドリィを連れて王都に行ってみようかな……」
と、そんな結論に至った。
その時である。
「おう、やっぱり役立たずじゃねぇかよ」
「え……?」
ボーっとしているボクに、そんな風に声をかける人物があったのは。
声のした方を見る。すると、そこにいたのは――。
「なんだ? しょうもない『復元』でブティックに就職か?」
先日、ボクを追放したリーダー。
アンディ・ローバーの姿だった……。
「マスターは、いったいどういうつもりなのか。理解しかねます」
そう言いながら、ドリィは店員から渡された服に袖を通していた。
彼女は自身を【アンドロイド】だと呼称しているが、それはあくまで僅かに残った記憶データ、そして自身の身体の構造を鑑みての結論。しかし、それはおおよそ正しいように思われた。この身体は人体に限りなく近いが、大部分が別物。
「すなわち、私は所詮人間ではない。それなのに……」
どうにも、ここ数日のケイトの様子はおかしかった。
女性慣れしていないのだろうか、顔を合わせると頬を赤らめる。さらには今回のように、ドリィをブティックに連れてきた。
それはアンドロイドである彼女にとって、疑問しか抱けないこと。
少なくとも、自分は『物』である。
「ん、なにやら騒がしいですね」
そこまで考えた時だ。
更衣室の外――ケイトがいるはずの、出入り口付近から怒鳴り声が聞こえたのは。即座にドリィは外に飛び出し、そして主人である少年の危機を確認した。
一人の屈強な男が、ケイトの胸倉を掴んでいる。
彼女はその男に向かって、こう警告するのだった。
「マスターから手を離しなさい。さもなければ、撃ちます」――と。
◆
「おい、ケイト。誰にそんな口きいてんだ?」
「ぐ……!」
アンディはボクの発言が気に食わなかったらしい。
でも、こちらの主張は事実だ。
「俺のパーティーが上手くいかないのは、お前みたいな愚図ばかりだからだ。そうでなきゃ、俺のような実力者がBランクに甘んじるなんて、あり得ねぇ!」
「それが、間違いだって言ってるんです……!」
「うるせぇ!!」
そう言って、彼はボクの胸倉を掴んだ。
どうやらアンディは、ボクが離脱した後も同じ間違いを繰り返したらしい。後衛向きな人材を前衛に配置し、挙句の果てにボロ雑巾のように捨てた。
そしてまた、手当たり次第に新人冒険者を漁っている。
そんな行い、止めなければならない。
これ以上はもう、アンディの横暴による被害者を増やすわけにはいかない。
「ぐっ……!」
「どうした。さっきまでの威勢はどこ行ったんだ?」
だけど、ボクには力がない。
戦うための力を持たないボクは、間違いを指摘するしかできない。だがこの世界において、それは決して正解だとは限らなかった。
暴力でねじ伏せられてしまえば、正しくとも間違いとなる。
「いいか、分かったな? これ以上は俺に逆らうな――」
そして、アンディが拳を振りかぶった瞬間だった。
「マスターから手を離しなさい。さもなければ、撃ちます」
ドリィの淡々とした声が、聞こえたのは。
驚いて見ると、そこには女の子らしい服装を身にまとった彼女が――。
「え、なにその手……?」
右手の五指を外し、アンディに向けていた。
彼女の指があったそこには、謎の空洞が開いている。たしかに、彼女は人間ではなく人形だから、そのような構造になっていても不思議ではない。
でも、それの意味が分からなかった。
「ああん? なんだ、コイツは……」
そして、それはアンディも同じだったらしい。
ドリィを睨むと、その出で立ちだけを見て鼻で笑った。
「なんだよ、そこの女。なにかするなら、やってみろや」
続けて、そう挑発する。
するとドリィは、小さくため息をついてから――。
「救いようのない、馬鹿ですね」
そう言った直後――チュイン!
「あ……?」
なにかが、アンディの頬を掠めた。
そして、スーッと傷ができて血が伝う。
「次は、その額にお見舞いしますよ?」
どうやら、ドリィが目にも止まらぬ速度の魔法を放ったらしい。
それを理解して、アンディは青ざめた。
「は、ははははは。なんだよ、俺を殺すってのか……?」
「えぇ、そうです。マスターに害を為すなら」
「…………!?」
対して、少女は表情を変えずに答える。
本気だった。微塵も迷いがない。
それを察知したのだろう。
アンディはすぐに、ボクから手を離してこう叫んだ。
「だ、誰か助けてくれえええええええ!? 殺されるぅぅぅぅぅぅぅう!?」
そうして、ブティックを飛び出していった。
唖然として彼を見送るボク。
そんなこちらに、ドリィは歩み寄って手を差し伸べた。
「大丈夫ですか? マスター」
何故だろう。
その時、彼女がほんの少しだけ笑っているように見えた……。
「これって、いったいどういうことなの……?」
ボクは改めて、そう思うのだった。
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