私の好きな人は私の事が好きな人。
「雫、いい加減出てきたら?」
「だ、だめです!!」
かれこれ1時間はトイレに籠城している。
夢だと思っていた事が現実で……
私は日向さんになんてはしたない姿を見せてしまったのだろう。
穴があったら入りたかったのでトイレに入った訳である。
「何がそんなに気になるの? 可愛かったよ?」
「か、可愛くありません……私なんか………」
取り敢えず落ち着こう。
恥ずかしいけど先程の出来事を思い出す。
あれ……?でもどうして……
“雫、大好きだよ”
あれはどういう意味なんだろう。
キ、キスをされて、あんな素敵な言葉を貰って……
もしかしてあれって……
……ううん、落ち着いて雫。そんな筈ないよ。
都会の子はスキンシップが強いのかもしれない。
そう考えれば辻褄が合う。
友達として……
「あ、あの……一つお聞きしてもよろしいですか……?」
「ん? なに?」
「す、す、好きと言って頂いた意味なんですが……その……と、友達として……ですよね?」
「……開けてくれたら答えるよ」
その返しはずるいです……
開けるしかなくなったので、小銭一枚分の隙間を開けた。
「あ、開けました……」
「顔が見たいんだけどにゃぁ」
小説一冊分程の隙間を開ける。
これが精一杯。
「み、見えますか?」
「うん、可愛い顔がチラチラ見えるよ」
その言葉に戸惑ってしまい、勢いよく扉を締めて鍵を掛けてしまう。
「や、やめてください……私なんか……可愛くないんです……」
胸が苦しく顔が火照っている。
私はどうしたらいいんだろう……
「……この扉がさ、雫と私の距離感だったら……雫は今私に対して鍵をかけてる訳だよね。私はもっと近づきたいな」
カチャッ
「わ、分かりません……どうして私なんかと…………」
「……雫、顔を見せて。それから……私の顔をちゃんと見て」
この言葉は無視してはいけない気がした。
ただ現実から逃げているだけで、日向さんと向き合っていないから。
日向さんが……好きだから。
ドアを開け、静かに日向さんを見た。
いつもより顔が赤くて……目が少しだけ潤んでいる。
それでも私の事を見つめてくれている。
「私もさ、恥ずかしいんだ。好きな人もキスも初めてだから。でもさ……仕方ないよ、好きなんだし。私もこんな気持ち初めて。ねぇ、どうしたらいいと思う?」
「そっ、えっ、あっ…………」
「もー……言葉になってないよ? ……雫の答え、聞かせてよ」
そう言って日向さんは目を瞑った。
ど、どういう意味なんだろう。
狼狽えていると、日向さんが片目を開けてくすりと微笑んだ。
「可愛いね、雫は。こうやったら分かるでしょ?」
今度は頬をこちらに向けている。
頬に……頬に何かするんだよね……
意を決して、日向さんへと近づく。
突き出している頬に、私の頬を重ねる。
「……なにやってるの?」
「えっ?その…………なんでしょう?」
「あははっ。もー……教えてあげる。頬を出して」
言われた通り頬を出す。
差し出した頬には柔らかくて温かい感触。
一瞬にして、思考が止まる。
「分かった? 今度は雫の番だよ」
頭の中がフワフワして、何も考えられない……ううん、日向さんの事しか頭にない。
私の番って事は私がキス……するのかな。
ど、どこにすればいいんだろう。
唇……だ、だめだよ!?そんな大胆な事出来ないよ…………
私なりに頑張って最大限勇気を出した結果、手の甲に優しく口をつける事に成功した。
今の私の精一杯。
「ご、ごめんなさい。これが限界で……ほ、本当はその……したいんですけど…………まだ気持ちの準備といいますか……その……」
「凄く嬉しいよ。雫のペースでいいから。ね?」
そう言って私の手の甲にキスをして微笑む日向さん。
可愛いなぁ……
「じゃあお互いの気持ちも確認出来たし、今日はお休みだし……デート、しよっか?」
「デート…………ふぇっ!?」
聞き慣れない言葉に共鳴するように、手の甲が疼いている。
お互いの気持ち……
も、もしやこれは……りょ、両想いというヤツなのでは!?
そうなのかな?そうなのかな?
聞きたいけど……恥ずかしくて聞けない。
えー……嬉しい……
「じゃ、支度して行きますか!」
「ふぇ!? ど、どこにですか?」
「言ったでしょ?デート♪」