躓く石も縁の端、袖すり合うも他生の縁
もし女優の道に進んでいなかったら……なんて、偶に考えてしまう。
堂々と手を繋いでデートして、暑苦しいマスクなんて外して、募る度にキスをしていただろう。
でも……もし女優の道に進んでいなかったら、彼女に出会えたのだろうか。彼女の隣にいるのは……私だったのだろうか。
そんな“もしも”の世界を想像してしまい、一人気落ちする。
「お待たせしました。こちらが晴さんが頼まれたブラウンスイス牛のジェラート……晴さん? どうかしましたか?」
困らせてしまうと分かっているのに……彼女の答えに期待してしまう。
「ねぇ……もし私が女優してなかったら…………雫に会えてたかな?」
台本を読んでは散々鼻で笑ってきたような高校生みたいな台詞を……泣きそうな顔で言ってしまう。
そんな私に、優しく微笑みながらおでこ同士を擦り合わせる彼女。
甘美な声に……ゆっくりと紐解かれていく。
「……この星にいる人間の数は約70億人。その中で接点を持てる人は約3万人。つまり、誰かと出会う確率は0.000004%。そして、天文学者ドレイクの式を使い導く、私が私として生まれあなたがあなたとして生まれ私達が出逢う確率は……0.00000000000000000000002%。文字通り、天文学的な確率です。でも、あなたと私は出逢い結ばれ、こうして想いを重ね合わせています。ふふっ、これは何と呼べばいいのでしょうか?」
彼女の手の上で溶ける二つのジェラートが、零れた土の上で二つに混ざり合っていく。
長い長いキスをしてくれた後、彼女は優しく微笑んだ。
「あなたと私が出逢う確率は100%なんです。何回星が廻っても、何回賽が回っても、あなたの隣には私がいて……何回もあなたはこの愛らしい問いを投げ掛けて、何回も私はキスをします」
女優とか芸能人とか、人の目とかスポンサーの顔色とか、そんなもの全てを無視した彼女の深い深い口吻に……欲しかった答えが導かれる。
「そういう……ふふっ、運命なんです」
先の世も後の世も、きっと私は彼女に尋ねているのだろう。
その度に……彼女は私の隣で笑いながら答えてくれる。
躓く石も縁の端、袖すり合うも他生の縁。
奇跡みたいで当たり前な日々と共に、彼女を強く強く抱きしめる。
「雫、大好き。ずっとずっと……愛してます」
「…………はい。私も愛してます」
溶け切った二つのジェラートに笑い合い……共に並んで買った一つのジェラート。二人仲良く、半分こ。




