甘々ショート 恋の音
「あぁあぁーーーー」
休日、扇風機の前で声を出し遊んでいる晴さん。愛らしいその遊び、少し真似をしたくてうずうずしてしまう。
「夏らしいことして遊びたいけど……こうも暑いと何も出来ないよね」
熱中症警戒アラートなるものは発令されているけれど……せっかくなら、あなたに夏を味わってもらいたい。
………よし。
「晴さん! う、海に行きませんか!?」
◇ ◇ ◇ ◇
と言うわけで海にやって来ました。
出かける直前、扇風機の前でこっそりと声を出し遊んでいる所を晴さんに見られてしまい、今に至るまで羞恥の極みで晴さんを直視出来ません。
「ほら、せっかく雫から誘ってくれたんだから……顔見せて?」
そう言われ……チラッと晴さんを見ると、パシャリと響くシャッター音。
あなたはとびきり可愛い顔で微笑みながら……舌を出してカメラを見せびらかした。
「は、晴しゃん!?」
「ふふっ、可愛くてつい」
「……ぷ、ぷんぷん丸ですよ?」
「じゃあ……ぷんぷんしてもらおうかにゃ?」
「…………ぷんぷん」
再度響くシャッター音。
恥じ入れた赤面もぷんぷん顔もフィルムの中へ吸い込まれ……愛しげにカメラを撫でるあなたには何も言えず……行き場のない想いを詰め込むように、あなたの唇を深く深く塞いだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふぇぇ……冷たいですねぇ……気持ち良いですねぇ……」
裸足でビーチサンダルを履き、文字通りビーチを歩く。地球の息遣いを感じる律動で押寄せる波が、足の下を通り抜ける度……思わず声が漏れる。
「あっ、見てみて。凄い立派な貝殻が落ちてる。耳に当てると波の音が聞こえるんだよね」
「そうなんですか? 恥ずかしながら初耳でして……どういった原理なのでしょうか……?」
「ふふっ、物は試し。一緒に聞いてみよ?」
愛らしい笑みに誘われ貝殻に耳を当てると……あなたと触れ合う頬と頬。
ドキドキが止まらなくて……幾ら聞いても聞き慣れない、四年前から聞こえるあの音がする。
磯の香りの上から重ね塗りする、お揃いの日焼け止めクリームの香り。その奥にある……あなたの香り。自然と唇が重なり合い、増してゆく二つの鼓動。
貝殻の中の波音は……金波銀波と煌めき揺らめく、恋の音色が響いていた。




