なりきりショート 夢と知りせば覚めざらましを
今日は晴さんとお家で映画鑑賞をしています。
十年程前に流行った映画だそうで、時間軸の違う田舎とおまちに住む二人が夢を見ているように中身が入れ替わってしまう……というお話です。
その結末には涙無くして見れません。
「うぅ……良かったですね……やっとここから二人は始まるんですね……」
「ふふっ、ちょっと私達に立ち位置似てるよね」
山奥の過疎地に住む私と横浜のおまちに住む晴さん……確かに似ています。
素敵なお二人ですが、私達も運命的な出会いをしたので負けてません。
「でもさ、私達は同じ日に生まれて奇跡みたいな確率で出会えたから…………ふふっ、負けてないよね」
……本当に、夢を見ているような現の世界。
あなたといると、何時だって銀幕の主役になれてしまう。
「ねぇ、せっかくだし私達も入れ替わってみない?」
「ふぇ?」
◇ ◇ ◇ ◇
というわけで、お互いになりきることになりました。
晴さんという存在は身体の中に染み込んでいるので想像し易いのですが……なんて考えている間に──
「ふぇぇ……なんだか何時もより視線が高く感じますねぇ…………ふぇっ!!? ど、どうして私が目の前にいるんですか!!!?」
凄い。
恥ずかしくて顔が噴火してしまいそうな程に、私である。
「ふぇっ!!!? こ、これ晴さんの身体ですよ!!? で、ではもしかして晴さんは……」
私が入りやすいような流れを作ってくれる晴さん(私)。
そんな技術に感心してる暇は無く……内なる晴さんを呼び起こす。
「ね、私が入ってるみたい」
「ど、どうしてそんなに平常でいられるんでしゅか!!?」
「ふふっ、なんか嬉しくて。一回雫になってみたかったし」
我ながら完璧に晴さんになりきれてます。
こうして見ると私は随分痛い存在で、晴さんはどんな時でもその場を楽しめる素敵な人なんだなと、改めて好きになってしまいます。
「ど、どうしたら元に戻れるのでしょうか?」
「寝たら直りそうな気もするけど……取り敢えずこのまま様子を見てみよっか」
晴さんになれているのが嬉しくて、ついのめり込んでしまう。
不安げな顔をするあなた(私)を優しく抱きしめると、そのまま雪崩れるようにソファへと。
「ふふっ、晴さんの身体大きい」
あどけなく笑い、そっと目を瞑るあなた(私)。優しく頭を撫でていると、目を見開いて首を傾げた。
「…………しないんですか?」
「えっ? な、何を……?」
「いつもの晴さんならその……キスをして沢山抱きしめてくれる筈なんですが……」
私の名を呼ぶあなたの中にいる私が、あなたの名を呼ぶ私の中にいるあなたに…………あれ?わけ分かんなくなってきちゃった…………
「…………晴さん?」
そ、そうだ。私は晴さんなんだから早く行動に……なんて思っていたけれど、唇を深く深く塞がれて夢の中へ。
「では……今日は私がする日で……いいんですか?」
そんな日あったかな……?
もう誰がなんなのかも分からず、只々あなたと私が混ざり合い幸せに溶けていく。
気が付けば日付が変わっていて……まるで夢を見ていたような……こ、これはもしかして本当に映画であったようなことが……そういえば私のお父さんも町長だったし……
「あ、晴さん……おはようございます……」
「ふぇっ!!? ま、まだ入れ替わってる!?」
驚く私の顔を見て、悪戯な顔で舌を出すあなた。漸く、夢から目を覚ます。
「ふふっ、なんてね。また入れ替わりたいにゃ」
「も、もうダメです!!」




