甘々ショート リバーシブル
彼女と過ごす、四回目のクリスマス。
この日ばかりは私も早起きをして、その一寸光陰を心に刻み込む。
枕元に置かれた袋を、彼女は丁寧に開けていく。この瞬間は……何時だってサンタクロースに感謝してしまう。
「ふぇぇ……は、晴さん、楽譜が入ってます! これは……ショパン直筆譜のファクシミリ版………………綺麗ですねぇ……」
嘗ての偉人が残した音を辿るように、その音符を指でなぞりながら恍惚とした表情をする彼女。
まぁ……嫉妬するな、なんて無理な話だから、二百年前にいる彼女を唇一つで連れ戻す。
「雫、ハッピークリスマス」
「ハ、ハッピークリ……ふぇ? な、なんですかこれは?」
先程よりも少し大きめの袋を彼女に手渡す。
サンタクロースに負けてられないから……なんて考えて、つい鼻で笑ってしまう。
「クリスマスってさ、サンタクロースがプレゼントをくれるだけじゃないんだよ。恋人とか友達とか……素敵な人の素敵な日になれるように贈ることもあるの。だから……私からのクリスマスプレゼント」
彼女は頬を赤く染め、目を輝かせながら袋を見つめている。
「開けてもいいですか?」なんて顔で私を見てくるから……唇を重ね合わせて、頷いた。
「…………ジャケットでしょうか? 浅縹色が美しいですね……名前が書いて……SHIZUKU……わ、私の名前ですよ!? それに猫ちゃんまで刺繍されて…………凄く素敵……」
綺麗な水色と袖丈が白色のスカジャン。
背中には彼女の名前と私がデザインした猫が刺繍された世界で一つだけのジャケット。
羽織っては満足気な顔で微笑む彼女。でも……スカジャンにはもう一つ顔がある。
「それね、スカジャンっていうの。知ってる?」
「……スーベニアジャケットのことでしょうか? ふふっ、確かに日本らしいですね。確か今では裏地も………………」
クリスマスの星飾りが反射して彼女の瞳は一際輝き……ゆっくりと確かめるようにジャケットを脱いで、裏地を見つめていた。
リバーシブル。
裏面はオレンジ色に変わり、私の名前とポンちゃんが刺繍されている。
何か言葉を発しようとした彼女だったけど……心が全てを追い越したのか、何も言わずジャケットを羽織り両手を広げハグのおねだりをしてきたので優しく抱き締めると…………
「ふふっ、晴さんに挟まれちゃった」
それは、素敵な人から素敵な日になる贈り物。
寝室から出た頃には、夜空に星が咲いていた。