一口目
ひとり買い出しの帰り道、あなたがよく使うコンビニへ寄る。
星の入東風が吹き始め、原動機付自転車で帰るには少しばかり寒いので……あなたが好んでよく食べるピザマンを買った。
立ち昇る湯気。湿気たグラシン紙を半分だけ剥がし……一口。
原動機付自転車の横で目を丸くし……頬が赤く染まる音が響いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「寒っ……風が吹くとヤバいね。雫、大丈夫?」
「ふふっ、お陰様でぽかぽかです」
あなたが纏うチェスターコートの中へ入っている私は、あなたの体温と匂いでクラクラしてしまう程火照っている。
でもそれはあなたが私を守ってくれているから…………より一層顔を火照らせて、意を決する。
「ピ、ピザマンを買いましょう!」
私の言葉と同時に目の前にあるコンビニの自動ドアが開くと……羞恥の極致から、そそくさとレジへ向かった。
ピザマンを一つ注文し、せっかくならとあなたを真似てスマホで支払いをしようと思ったけれど上手くいかず……あなたは耳元で優しく囁きながら使い方を教えてくれた。
「ううん、ここじゃなくてこっち……そうそう、それを店員に見せて…………ふふっ、上手に出来たね」
甘く微笑むあなたに見惚れ、好きが溢れて止まらない。
店の外へ出た瞬間あなたのコートの中へ潜り込み、目一杯背伸びをしてキスをせがんだ。
「……小悪魔ちゃんめ。我慢出来なくなっちゃうよ?」
「ごめんなさい……私、その……」
「ふふっ、大好き。ピザマン食べよっか。ちょっと待っててね」
そう言ってあなたは大きく口を開けて一口目を食べようとした。いつも……いつもあなたはそうしてくれた。
【ねぇねぇ、ピザマン食べない?】
【ピザマン……ですか……? どのような食べ物でしょうか?】
【えっ!? 知らないの!!?】
あなたと出会う前は、コンビニなんて行った記憶が殆どない程縁のないものだった。
【ちょっと待っててね……はい、どうぞ】
【ありがとうございます。では、いただきます…………ふぇぇ、美味しいですねぇ……】
いつもあなたは大きく一口食べて、その後私に渡してくれた。
【ふふっ、美味しいね】
いつも美味しいと言いながら私を見つめてくれた。
でも私……気付いたんです。
先日一人でピザマンを食べた時に…………一口目では具まで届かないって。
だからあなたは一口目に大きく齧り付いて……一番、一番美味しい場所をいつも私に食べさせてくれていた。
だから……だから今日は私が──
「わ、私が先にいただきます!!」
「ちょ、ちょっと雫?」
はしたなくも……あなたからピザマンを奪い取って、目一杯の一口。
昇る湯気と共にほんの少しだけ顔を覗かせたピザソース達。
口の中は満杯。瞳で語りかけピザマンを渡すと……あなたは愛しげな瞳で語り返して一口。
「美味しい♪ 雫も……美味しいでしょ?」
全てを理解したあなたは私に優しく微笑み……あなたの言葉とこの現象に、私の顔は赤く染まっていた。
それはいつもあなたが見ていた景色。
「ふふっ、美味しいね」
大切な人が微笑んで食べてくれるから……具のないその一口目が、何よりも美味しく感じた。




