穏やかな一頁
一月程遅れてやってきた秋麗。
晴さんにとって束の間の三連休も今日が最終日です。
久々の散歩日和。仲良く手を繋ぎながら近所を散策し……木陰に紛れて、何度もキスをした。
幸せすぎて……口の隙間からは可笑しな声が漏れてしまう。
そんな私でさえあなたは愛してくれるから、嬉しくてまた声が漏れ……止め処なく続く、あなたからの愛。
新しく出来たお洒落な雑貨屋に入り、可愛らしいイヤリングを見つけた。
付けづらそうにしていたから、私が付けようとして……少し屈んでくれたあなたの顔が近くなり、思わず頬へキスをした。
以来、このお揃いのイヤリングを付ける度に……あなたは意地悪っぽく笑いながら、少し屈んでくれるようになった。
帰宅後は、夕風で冷えた身体をおでんを食べて温めた。
竹輪を使い汁を吸ってみせたあなた。驚きつつ、私も真似をして……共に笑い合う。
久々の泡風呂。
泡を顔に付けてあなたとはしゃぎ合う。
ひと度あなたと触れ合うと、泡が消えるまで抱きしめられて……抱きしめて。
そんな幸せに囲まれた穏やかな一頁は、もうすぐ捲られる。
「明日は朝一の仕事だから早起きしないと」
「……では、どちらが早く起きられるか勝負してみますか?」
「ふふっ、絶対雫が勝つでしょ? いつも五時前には起きてるし。でも……たまには勝ちたいかにゃ」
一つの掛け布団の中、抱き合いながらおでこを重ねる私達。
初めて……こうして、あなたと過ごした日のことを思い出す。
【ひ、日向さん……その……ち、近いといいますか……】
【ふふっ、せっかく一緒にいるんだから同じ布団で寝ようよ】
【で、ですが……布団の中ですし、その……せっかくなのにお顔が見れませんし……ふぇっ!?】
【ほら、こうすれば互いの顔が見れるでしょ?】
あなたの顔を見ながら眠りにつけたらどんなに幸せかと思っていたのに……あなたの顔があまりにも美しいから、思わず目を瞑ってしまったあの日。
そんなつもりは無かったのに……あなたは私の唇を優しく塞いでくれた。
あれ以来……私が目を瞑る時は、キスをして欲しい時のしるしになった。
今もこうして……あなたの顔が目の前にあると、つい目を瞑ってしまい……唇が重なり合う。
「ふふっ、幸せだね。ねぇ、せっかくならしりとりしながら寝よっか」
「では私から始めますね…………好き」
「もー……キス」
何度も唇を重ね……しりとりをするあなたの声は緩やかになっていき、やがて眠りについた。
そんなあなたを隙間の無いこの距離で……何時間も見つめていた。
次第に瞼は重くなり……二時間後訪れる景色が目に浮かび、頬が緩む。
夢裡との狭間が見えてきて、瞼が閉じるその前に…………
しりとりは私の番。あなたが残した語尾は“す”。
「…………好き」
重複した言葉と唇を重ねて、夢の中へ。
しりとりも早起き勝負も……ふふっ、負けちゃいました。