なりきりショート 北風と太陽
書斎を掃除していると懐かしい本が目に入った。せっかくなので十時のおやつの時間に読むことに。
珈琲を淹れる準備をしていると、机の上に置いた本を手に取り首を傾げる晴さん。
「イソップ……寓話集?」
「はい。小さい頃に読んでいたので懐かしいなと思いまして……」
「へぇ…………北風と太陽……」
暫く読み始めた晴さんは、次第に何か企むように愛らしく微笑みながらワードローブの前へ向かい、カーディガンを手に取った。
「ねぇ雫、今から勝負しない?」
お付き合いしてから幾度となく行われてきた勝負事。戦績は五分五分です。
今日はどんな勝負になるのでしょうか。
「北風と太陽になりきって、相手が着てるカーディガンを早く脱がした方の勝ち。せっかくだし……ふふっ、外でやろ?」
というわけで、北風と太陽勝負です。
◇ ◇ ◇ ◇
じゃんけんにより、私が北風。晴さんが太陽になりました。
まずは先行の晴さんからです。
「道具は使用しちゃダメね。それから、互いの役に模した効果で脱がすこと。じゃあ……始め♪」
庭のウッドデッキで繰り広げられる勝負。
十月も半ばを過ぎたけれど……今日の東京の最高気温は摂取三十度。
何もしていなくても汗ばんでしまう。
早くカーディガンを脱ぎたいけど……勝負だしもう少し我慢しないと……
「さてさて、我慢強い旅人の下にお日向様がやってきたよ?」
そう言いながらお日向様は私に思い切り抱きついてきた。柔らかくて温かくて……いい匂い。
いつもならここで優しくキスをしてくれるから……いつも通り、キスを待つように目を瞑ってしまう私。
待てど来ない唇。目を開けると、愛しそうに私の顔を見つめていた晴さん改めお日向様。
勝負事と忘れてしまっていた私。一瞬にして顔は茹で上がり、堪らずカーディガンを脱いだ。
「ふふっ、結構早かったんじゃないかにゃ? じゃあ次は雫の番ね」
状況も条件も、北風側が圧倒的に不利。
風を使って服を脱がすなんてどうすれば……
イソップ寓話では勝負に負けてしまう北風。その敗因を考えて……私なりの北風しずくちゃんで挑みます。
「き、北風しずくです。か、風が吹いてきましたよ?」
あなたの下へ行き……耳元で優しくふっと息を吹きかける。
それから……恥ずかしくて倒れちゃいそうだけど、風で靡くように自分のシャツを少しだけ捲って、ヒラヒラとおへそを出した。
「もっと風を……感じてみませんか?」
あなたの服を脱がせることには成功したけれど……気が付けば私は寝室にいて、私も服を脱いでいた。
徐々に何があったのかを思い出し…………ただの淫猥だと気が付き恥ずかしさの極致から布団を二重に被ると……それを剥がそうとするお日向様との二回戦目が始まった。