甘々ショート マシマシ
偶に彼女と出掛ける居酒屋が、ランチ限定でラーメン屋を始めたと聞き彼女とやってきた。
一度食べてみたかった◯郎系と呼ばれるジャンル。店内には注文する際のルールが貼ってあり……
「ふむふむ……アブラ……カラメ……マシマシ……」
貼り紙の前で愛らしく首を傾げている彼女。
私は何となく知っているけれど、念の為スマホで確認し予習する。
後のことを考えるとニンニクは入れない方がよさそうだから……なんて色々考えているうちに店主が話しかけてきた。
「女性二人で一杯ずつだと多いと思うので、一杯をシェアされてはいかがですか?」
と、提案されたので素直にそうすることに。
「ニンニク、入れますか?」
噂で聞いたことのあるコール。
現物が無いから想像し難いけど、二人で一杯なら……
「ヤサイマシマシで」
そのままでもよかったんだけど、せっかくなら私もコールしたかったのでマシマシに。
彼女は隣で目を輝かせながら拍手をしている。
ラーメンなんてどうでもよくなってしまう位可愛くて……机の下で指を何度も絡ませ合っていた。
それも束の間。机の上に置かれたマシマシのラーメンを見て、彼女は見たことのない表情で固まっていた。
「は、晴さん……ラーメンと聞いていたのですが……」
彼女はアッサリとしたラーメンが好み。
でも目の前のこれは、デロデロの豚肉の塊と背脂。やけくそ気味に盛りに盛られたキャベツとモヤシ達が丼からはみ出していた。
思わず笑ってしまい、彼女と記念撮影。
食べきれないと思った彼女はプラスチック製の保存容器を取り出し、持ち帰れないか店主に聞いていた。
そんなところも大好きで……無理して食べようとした私を止めて、彼女は麺と汁を別々の容器へ入れ微笑んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
帰りの車中、少しサッパリしたくてペットボトルに入った炭酸飲料を飲む。
ふと先程のラーメンを思い出し、赤信号で笑ってしまった。
「ふふっ、凄いラーメンだったね。マシマシ恐るべし」
飲みかけたペットボトルを彼女へ渡し、彼女は少し俯きながらそれを口にした。
それが間接キスだと理解したのはその後で……彼女はいつだって大切なことを思い出させてくれる。
それは初めて間接キスをした時と同じ表情で……変わらぬ愛に、ギアを入れ替えサイドブレーキを引いた。
「……そんなに可愛い顔して、どうしたの?」
「いただいたペットボトルが晴さんの口に触れていたと考えるだけで……甘さマシマシです」
点滅する歩行者用信号機。
色が変わるまでの五秒間、身を乗り出してキスをした。