りとらぶ
彼女が最近ハマっている“りとらぶ”という漫画のポップアップストアが原宿で催されるので、栞に頼んで開催前日に入らせてもらうことに。
“なんだかりとるでらぶりーなやつ”というタイトル通り、可愛らしいキャラクター達で溢れている。
漫画を見たことはないけど、せっかくなので私も何か買うことにした。対になっているネコとシロクマ?の可愛いキーホルダーを買い、片方を彼女へプレゼントした。
そんな彼女はトゲトゲが付いたカラフルな棒を嬉しそうな顔で握りしめている。
「雫、それは……なにかにゃ?」
「これはですね、りとらぶの主役二匹が使う刺叉でして──」
嬉々として説明してくれる彼女。
要約すると……報酬をもらうために怪獣を討伐し、その際に使われる武器らしい。
その可愛らしいキャラクター達に似合わない世界観に思わず笑ってしまう。
楽しそうにキャラクターになりきって刺叉を振るう彼女。
私もその笑顔に満足し、会場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
せっかく原宿に来たので、そのままデートを続けることに。真新しい秋物の服を纏った彼女は、心配そうな顔で私を見つめてきた。
その顔でさえ愛しくて、つい頬が熱くなる。
「晴さん、その……大丈夫でしょうか? 今日は伊達眼鏡もマスクもしてませんし……」
「ふふっ、大丈夫。こうして自然にしてる方が目立たないし、節度を守れば構わないって栞に言われてるから」
言い付け通り、節度を守ってイチャイチャと。
見せつけるように……彼女の肩を抱き寄せて歩く。私の自慢の恋人。世界で一番、可愛い恋人。
そんな彼女は、困惑していた訪日外国人の道案内をし始めている。流暢な英語で案内し……それでもその挙動からはどの言語でも謙虚なのだろうと感じ、胸の奥が温かくなる。
案内が終わると、馴れ馴れしく彼女の肩に触れようとしてきた訪日外国人。
咄嗟に彼女の代わりに持っていた刺叉で挟み込み、電柱へと押し付けた。
「Don't touch her. she's mine.」
出したことのない声色と表情で睨見つけると、片手で謝りその場を去っていった。
電柱の影、彼女を強く優しく抱きしめて……二度と離さまいと唇を塞いだ。
「雫は世界一可愛いんだから……気をつけなきゃダメ」
「…………ごめんなさい」
そう言いながら抱き返す彼女。顔は見えないけど……真っ赤な耳を見てこれ以上は節度が守れないと思い、パーキングへと戻った。
家に戻るまでの車中、お互い何も喋らず……ただ、信号が赤になる度に唇は重なった。
◇ ◇ ◇ ◇
我が家に戻り寝室へ。刺叉を壁に立て掛けると、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、案外役に立つんだね。これは漫画だとどうやって使うの?」
「こう構えまして……やーっ、という掛け声と共に怪獣を挟んで討伐するんです」
「討伐出来ないとどうなっちゃうの?」
「その場合は甚振られたり食べられたり……晴さん? どうして服を脱いで…………」
「ふふっ、怪獣が服着てたら可笑しいでしょ? さ、討伐開始♪ ほらほら、掛け声は?」
「…………や、やぁ……」
その日から定期的に行われる討伐。
真っ赤な顔で刺叉を握る我が家のりとらぶは、今日も返り討ちにあい食べられる。