なりきりショート・ヤンキー編
葵から薦められた不良漫画を読む木曜日の午後。最近のヤンキーは時を越えられるらしい。
「そういえば不良役は演ったこと無かったっけ」
「ふふっ、何を読まれてるんですか?」
「ヤンキーがいっぱい出てくる漫画。読んでみる?」
ヤンキーという言葉を聞き、頭の上にはてなマークを浮かべている彼女。
何をしても何もしなくても可愛い素敵な恋人。
「ふむふむ……蛮殻な方々が出てくるんですね。昔詩音ちゃんが荒れている時期がありまして、気弱な同級生にお金を集っていましたが……あれがヤンキー?なるものなのでしょうか?」
「ふふっ、まぁ近いって言えば近いのかな? せっかくだしなりきってみよっか。負けた方は……勝った方の妹分になる。どう? ワルい子になれるかにゃ?」
「ワ、ワルには自信があります!!」
というわけでヤンキー対決の始まり。
ヤンキー……あんまり怖がらせちゃうのも嫌だし、バランスが難しそうな役。
暴力的なのは論外だし、どうしてもステレオタイプな感じになってしまうのは仕方が無い。
適度なワル、適度なワル…………よし。
「アマヤ、購買行って焼きそばパン買ってこいや」
「ふぇっ!? や、焼きそばパンですか!?」
「四の五の言わず行って来いや」
「し、少々お待ちください……………………や、焼きそばパン売り切れてました……で、ですので代わりの物を買ってきました」
「いい心がけだなアマヤ。で、何買ってきた?」
「シベリアです」
「おう……渋いな……」
◇ ◇ ◇ ◇
なんだかんだ彼女の領域に飲まれ締まらない結果に。それが嬉しく思ってしまう私も、相当締まりがないのだろう。
さて、次は彼女の番。
一体どんな姿を見せてくれるのかな?
「わ、私とってもワルなんです!!」
あー、可愛い。耐えきれるかな……
「ふふっ、どんなワルなの?」
「先日スーパーで買い物をしている時、賞味期限を見て後ろの方から牛乳を取ってしまいました!! どうですか? とってもワルでしょう?」
ワル自慢をしてドヤ顔をする彼女。
確かに、悪魔的に可愛いとんでもないワルだ。
「で、ではヤンキー?になりますね…………や、やいやい!! お、お金を出しなさい!!」
もう無理、好き。
「いいよ? 十万? 百万?」
「ふぇっ!? き、金額ではなくてですね、その、誠意と言いますか……」
「気持ちってこと? じゃあ……これでいい?」
「は、晴さんどうして服を脱いで……」
「私の誠意。ワルなんでしょ? もっとワルいこと……教えてよ」
私には到底越えられそうにない程に愛しいワル。暫くは妹分として存分に彼女を味わった。
そんな我が家のヤンキーは、今日も周囲を気にしながら牛乳を奥から取っている。




